□月 ○日  No515 幻想の世界の歌


今日出社したらヴィヴィットたちが歌を歌っていた。
また朝倉が混怪の出し物として訳の分からないものをインストールしようとしたようだ。
歌は下手ではないが音程が取れているだけで、まるで合成音楽でも聴いているような
雰囲気である。 だがこの歌はただの歌ではないという。
所謂「呪歌」というもので標的を催眠状態に陥れながら言霊を
叩き込むことができるらしい。


幻想郷の「呪歌」は侮れない。
相手を魅了する程度の歌ならばまだかわいい部類だ。
ルーミア程度の言葉のやりとりでさえ呪われる場合があるのが幻想郷の恐ろしいところだ。


夜雀の歌は主に目に作用してまるで緑内障にかかったように視野を大きく狭めてしまう。
夜雀の呪歌を聴いて頭が痛くなると言う話をよく聞くが、
一般的には眼圧上昇で視神経圧迫されることによって起こるらしい。


白玉楼に住むお嬢様の呪歌は危険を通り越して、一種の音響兵器の域まで達している。
その美しい歌声を聞いた者は魂を抜かれて亡霊となってしまうという。
お嬢様のお供をしている者でも否応なく半霊になれるらしい。
彼女の歌声から身を守るためには、逆波長の歌声をぶつけて変質させるしかない。
この技術を応用した発明がノイズキャンセリング技術だという。


ヴィヴィットに歌を覚えさせて何に使うのかと岡崎に尋ねたところ。
月の住人は騒ぐのが好きなので、飲み会の余興に歌わせようと考えているようだ。
もちろんいざとなったら兵器として転用することも考えているのだろう。
たとえば「四面楚歌」では敵軍隊の戦意を喪失させる効果があることが知られている。
兎は聴力に優れているのでこうした揺さぶりに弱いらしい。
もっともその効果はものの数分で対策されるとも言われている。


朝倉はヴィヴィットのテスト申請をしていた。
北白河から申請書類の複写を見せて貰ったら、案の定テスト場所が混怪の会場になっていた。
まだ懲りていないようである。
北白河は私が持っていた書類をひょいと奪い取ると無言でシュレッダーの中に放りこんだ。
素直に自分で歌を歌えば良いじゃないかと北白河に話したら
朝倉の歌は下手すぎて公害に匹敵するらしい。
彼女が何を目的にテストをするのか、気になるといえば気になるが
ろくでもないことに使うことは明白なので深くは突っ込まないでおいた。
それ以外は普通の一日である。