「いつの間にここまで掘っていたのかね。」
甘粕達は近代的構造の地下トンネルを進みながら唸った。
周囲を見ると、職員らしき人間が今も働いているのが見える。
「鬼たちだ。土木建築の天才だよ。
法界へと通ずる地下トンネルだ。我々の出資の下20年前から掘り進めてきた。」
携帯電話を操作しながら、カクタスカンパニーの社長であるエーリッヒは応える。
「エーリッヒだ、ああ分かった。」
「どうしたんだ?」
甘粕がのぞき込むように、エーリッヒの表情を観察する。
「どうやら、あの入道 我々の味方のようだ。」
*
月兎相手に村紗水蜜は善戦していると言えた。
撃沈アンカーは元々、月と地上へと繋ぐ船を「撃沈させる」という意味において
十二分の効果を発揮したからだった。
フリーダム号は少々の損害を出しながらも巡航している。
月兎が次から次へと落ちているのだが、幸いロケットには当たっていないようだ。
「フリーダム号 八輌目左後部に被弾 防火シャッター作動 損傷レベル3」
「月面進入路捕捉 0892(ゼロエイトナインツー)エリア ポイント1437(ワンフォースリーセブン)」
「各部再チェック ダメージ状況を報告せよ」
「フリーダム号 エンジン部に異常 内燃部に切り替えます。」
「インベテンデンス号 防御シールド出力上昇」
「作戦続行に支障有りません」
損害状況を聞いた稗田阿求はこの結果に満足していた。
これならロケットを無傷で送り届けることができるだろう。
ロケットはすでに二段目を切り離し、最終シーケンスへと向かっていた。
*
「しかしこの兎余計なことまでべらべら喋るなあ。」
月兎との尋問を終えた草蓮が呆れた表情で呻いていた。
「それだけ、月の防衛能力に自信があることの現れでしょうね。」
草蓮が声の主に目を送ると、そこには今まで出張していることになっていた小兎姫の姿があった。
「先輩、お帰りなさいませ。」
櫻崎比良乃がその場から立ち上がり会釈する。
「ただいま」
小兎姫も疲れが残る笑顔でそれに応えた。
荷物を置きながら、小兎姫は局長に事の次第を報告した。
月の姫「蓬莱山輝夜」が霊能局に全面協力すること。 そして
彼女が見返りとして要求しているのは月の都の正確な情報であることだった。
「月兎間の相互通信でとりあえず月の情勢は分かるはずじゃないのか?」
この報告に思わず草蓮が突っ込むように声を上げる。
「あの月兎の情報は話半分で聞いた方がいいです。 彼女たちの情報はかなり誇張が混じっているみたいで。」
局長への報告を横で聞いていた櫻崎が口を挟んだ。
「ところで、月兎捕獲に協力したとかいう民間人は?」
「あれは民間人と言うには語弊がありますね、黄昏酒場の連中ですから。」
「よりによってあいつらが首を突っ込んできたか。」
草蓮の報告に局長が思わず唸る。
黄昏酒場とは顕界における妖怪ネットワークの基幹を構成する存在である。
妖怪達の情報は幻想郷顕界問わずどういうルートで集まってくるかはわからないが
集約されていると言われている。
その情報集積能力は鴉天狗が取材に利用するほどと言われている。
「黄昏酒場の連中からも情報を聞き出すように、場合によっては我々と協調して貰うことになるだろう。」
霊能局局長の指示にメンバー全員が頷いた。