□月 ●日  No1461 理香子免許を取る


小兎姫はどうにかして顕界にやってきた朝倉理香子に自動車運転免許を取らせようと思っていた。
色々なことをするにしても、たとえば身の回りの書類が必要なもの全て身分証明がいる。
理香子は会社から支給された保険証で十分ではないかと言っていたが
顕界で生活する以上は顕界のルールに従うものだと言って無理矢理申し込みさせた。


八雲商事は理香子が免許をとると知ると全面的にバックアップしてくれた。
といっても彼女も忙しいので、合宿による集中講義ではなく普通に学校に通って貰う
方法で対応することになった。


入学初日。シミュレーター。 自動車運転の基礎を知って貰うはずが
根本的問題に気づいた。 彼女の道路交通に関する知識は小学生以下なのだ。
彼女が分かっているのはせいぜい赤信号の時は渡ってはいけないということだった。
それまでは青は渡れ、黄色は急いで渡れ 赤はよく見て渡れだったのだ。


小兎姫は大慌てで小学生用の道路交通標識の資料を用意させた。
それほど彼女の知識は酷いものだった。当たり前だ。
彼女はつい最近まで空の上を飛んでいたのだ。 


最初に行われる心理テストも彼女を困惑させた。
ロールシャッハテストを行い彼女の運転気質を判定したのだがこれがまた酷いものだった。
実際問題として彼女もどういう意図で行われているのかを考えあぐねて深読みしすぎたようだ。


自動車の速度に大半の人はびっくりしてゆっくり走るのは常である。
だが理香子はそうはならなかった。
自動車の速度を体感するなりなんてスピードが遅いんだと愚痴って見せた。


だが教習所の教官の話を聞くと運転時の理香子は身体ががちがちでまるで
ロボットのようだという話だった。 
学科も最初とんちんかんだったが、何とかかんとかついて行っている。
とにかく仮免許を取得しないからには路上に出られないので、
学科を受かれと言うことで皆で協力することになった。
有江さんがテストの模試をもっていたお陰で大いに助かった。


それでも理香子は一発合格とはいかなかった。
結構カリキュラムはオーバーして彼女も意気消沈していた。
だが、諦めてはいけないと彼女自身も理解したようだ。


仮免許を取ってからは八雲商事の構内で自動車運転の練習をすることになった。
とにかく坂道発進をなんとかすることが必要だ。
八雲商事で練習したのはオートマチックではなくマニュアルミッションの乗用車が
残っていたのがそこしかなかったからだ。


数週間にも及ぶ特訓の成果、最後の試験は一発合格できた。
前日はほぼ徹夜状態、合格してからはしばらくの間眠ってしまっていた。


免許を取ったあと二人で重大な問題に気づいた。
免許条件 眼鏡等と書いてあった。 
本当は裸眼でも平気なのに眼鏡をつけられなくなると勘違いした彼女が
勝手に目が悪いのを演出したためだった。


かくして理香子は自動車免許をとれたのだが
数日後にキャンピングカーを買ってきて唖然とした小兎姫の姿があった。
まさにどうしてこうなったと言う内容だ。
理香子はきょとんした顔でこのために免許を取らせたのでしょうと言っていた。



小兎姫から聞いた朝倉免許を取ったときのエピソード。
笑いながら聞いていたのだが、妖怪の新入社員が顔を真っ青にしていたのが印象的だった。
自分も免許を取れるのかという具合である。
大丈夫、朝倉でも取れたのだから心配は要らない。