■月 ●日  No5000

 その場所は見慣れた光景だった。
 殆ど人が入っていないと思われる森の中。あるのは獣道とばかりである。
 普通の人なら迷子になるであろうその場所だが、幸い、8度目の侵入の中で
 だいぶ慣れてきた。 余裕をかましているのは背中に付属しているコードのせいだった。
 これがあればもしも私に何か起こっても引っ張ってもらえるだろう。
 幸いここにはコードが引っかかるような植物はほとんどない。
 普通なら間伐などを行って若い木が生い茂るように調整されているものだが
 ここはそれすらも入っていない。だからこの土地は所謂もやしである。

 私は自らの過ちを償うためにここにいる。ここにいけば行った回数分刑期が
 一年も縮まるのだ。最初は何か裏があると思えたこの侵入もここまで順調だった。
 流石にコードが伸ばせるように多少は草木を刈ったりもしたが、大したことではなかった。
 
 だが今回ばかりは訳が違った。いや少し考えればわかるはずだった。
 ここが自分と同じところである以上はいつかはそうなるのだ。
 つまり現地の人に出くわした。 現地の人はまだ建てられた木の棒を拝んでいた。
 しばらく拝んでいるところを覗いていたら、流石に目が合った。
 私は思わず「何をされているのですか?」と尋ねた。
 現地人、それは中肉中背の男性だったが、やはり無縁仏を弔っているとのことだった。
 ここで発見された子供の遺体を偲んでのことだという。
 この場所は、酷い飢饉に見舞われ、かつてはそのようなことがしばしば起こったという。
 今は、食べ物を買うことができるようになり、ありがたい話だと言っていた。

 これは重大な発見だ。ここには人が住んでいて、それなりの文明をもっているようだ。
 衣服はみずぼらしいが、ここがあの場所なら、確かにあり得る話だ。
 私はコードを使って、コードの先にいる博士と連絡を取ろうと試みた。これなら自分の刑期も
 さらに縮まるに違いないのだ。 私は男性と別れ帰投の手続きをとることにした。
 これで今日のノルマは達成したと。

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 全く今日はひっでえ日だ、こうしてここも食い物に困らなくなって、ここに墓を建てる余裕が
 できたというのに、なんか変なもんにエンカウントしてしまった。
 連中の装備を見ると、まあここの人ではないことはわかる。ちっとは現地人に溶け込めよと思う。
 まあこうして、携帯端末を取り出している自分も大概だな。
 「コード 108 お客さんが来店した 切符は・・・そうだな。片道でいいか?」