■月 ●日  No5037

 自分の躰がおかしいことには気付いていた。
 店主から告げられた事実は、まさに自分の身体の異変そのものだったのだ。
 「まず基礎疾患がすべて消滅する。

  一方で先天的な病気で治療したものは再発もする。」
 これは自分にとっては特に問題ないことだと思う。
 
 店主に自分の顔を鏡で映すように促された。
 顔にあったはずの傷がなくなっており、若干だが人相も変わっているように見える。
 口を開けると歯の治療痕がなくなっていることにも気づく。
 無くなったはずの歯まで元に戻っているさまはまるで自分が自分でなくなるような
 錯覚に陥るものだ。ある意味自分のアイデンティティの一部が消えてなくなった
 ようなものである。体に出来た傷跡がなくなるのはある人種にはうれしいこと
 かもしれないが素直に喜ぶことができない。

 「つまりこれこそが 彼の能力と。」
 「その通りよ。 あなたも不運ね。」
 「そうだな。」

 素直に頷くしかない。
 「これによって術者なり自分が受けるペナルティは?」
 「実質ないわ。」
 あまりにあっさりとした答えに思わず絶句した。
 「ない?このような秘術をノーリスクで実行しているというのか?」
 「ええ、見た目上のリスクがないのよ。彼の術は。」

 なんてことだ。私は生き延びたのではなく強制的に蘇生されたのである。
 少なくても治療痕で自分の身元を特定することができない。
 そして彼女が言うところ真のリスクは。

 「まさかDNAもバックデートしてしまうのか?」
 「ご明察」
 「なんてことだ。」

 リスクなんてレベルではない。これでは自分を特定する手段が喪われてしまうことを意味する。
 まさに最悪の答えだった。

 もちろんこれら事態は死神でもその人物が起こした事象ではない。
 しかし、残念ながら彼は周囲からそう思われているのである。