□月 ●日  No845 やわらかうさぎ


久々に月に商品を届けに行ったら、月兎たちの頭に得体の知れない物体が乗っかかっている。
頭にある耳と耳の間、まるで丁髷のような物体をよく見るとそれはなんとちくわだった。
どうコメントしていいのかわからなくなった。


遠回しにこれはなんですかと聞いてみる。とりあえず似合っていると心にもないことを言って
角が立たないようにしたつもりだが、相手にあっさり察知された。
なんでもこれは「ちくわ」という代物らしい。
月の都に穢れをもたらすマジックアイテムなんだそうだ。 
どこがどう穢れを呼び出すのか本気で悩んだんだが、これは魚の練り物でもある点がポイントらしい。


ご存じの通り、月の海には生物が存在しない。 ライフゲームそのものが穢れと認識されるためだ。
つまり本来月にない海産物を使った物体こそ、「ちくわ」というわけだ。
なんか穢れをもたらすカミの力を得た代物だと言うがよく分からない。
そこのお前笑うな。 


なんで頭に乗っけているのかと尋ねると、幻想郷にいる兎の智恵だという。
ブレザー兎がそう言うとは考えにくいのでまず間違いなく詐欺師兎の仕業に間違いない。
なんでもこれは同時に退却をする白色戦車のシンボルなのだという。
これを装備することで退却時に身の安全が保証されると言うのだ。
なんという後ろ向きな武器、嘆息する綿月依姫の姿が目に浮かぶようだ。


さらにこのちくわには色々な使い道があるそうで
なんとおでんの汁を吸うことができるのだそうだ。
月におでんがあること自体驚きだが、熱くないのかと尋ねたらやっぱり熱いと答えた。
さらに逃げ遅れてもまずちくわが食べられるから逃げやすいそうだ。
なんか腰から力が抜けるのを感じた。


もう駄目だ。綿月依姫にチクるしかない。
依姫に会いたい旨を伝えて彼女の姿を見た瞬間信じられない光景を目にした。
そこにはやっぱりちくわを頭に載せた彼女の姿が。
何かホラーみたいなものを見た瞬間だった。
当人曰く、穢れを受け入れさらなるステップへ躍進するためだと言うのだが
もういい加減騙されてるよと言う気は失せた。
お前もちくわぶを頭に載せるんだと言われたときには思考する能力はすっかり失せていたと思う。


帰って朝倉に腹を抱えて大爆笑されたときようやく正気に戻った。
あのときの朝倉の顔と言ったらまるで子供のようだった。
これだから月人と付き合うと碌でもないと思った。