□月 ●日  No999 八雲商事誕生 


妖怪たちの居場所が無くなっている。
旧友から告げられた言葉はあまりに深刻であった。
私とて気づいていないわけではない。
既に、御利益のある場所の統廃合が始まりつつあった。
守り神のリストラクチャリングが進行していたのである。


旧友はこの土地の一部を切り取って妖怪たちの居場所を用意すると言っていた。
恐らく、妖怪を集めているというあの場所を完全に隔離する気だろう。
だが、それには色々と課題が残るはずだ。
第一、誰がこのこの土地を管理するのか。
そしてどう養っていくのかだ。


たぶんその面倒な部分を私に押しつける腹づもりなのだろう。
彼女はいつもそうだった。 面倒な事は片っ端から私に振ってくる。
だが、彼女の配下である狐型の式神では創造的な行動はあまり期待できない。
単純な仕事を繰り返すのには向くが、試行錯誤しながら問題解決を図るのは苦手なはずだ。


問題は山積みだった。
資金的問題は天狗たちが何とかしてくれた。 彼らは人間の生活環境にいち早く溶け込み
いわゆる近代化に対しても順応し始めていた。
とにかく幻想郷を維持するにはお金がどうしても必要だったのである。
妖怪たちは多少物を食べなくても生きていけるが、そこに住む人間はそうはいかない。
隔離することは経済活動を止める結果になりかねない。
だからどうしても、定期的な資金注入は必要だと考えられた。


旧友が苦手な部分はまさにそこだったと思う。
彼女は力こそあったが、社会システムを構築することはてんで駄目だった。
博麗神社を中心に据える時だって色々ごたごたがあったものだ。


アメリカと呼ばれる土地から蒸気機関車が届いたというので見せて貰う。
素晴らしい輸送手段だ。 これまで大量輸送と言ったら水運しかなかった。
だが、旧友が用意した土地は水運を活用することができなかった。
水運が活用できる土地は兼ねてより人間たちが住う場所として目立ちすぎるし、
工場と呼ばれる場所から毒が流れているという話を河童達から聞いていた。
だから水運に代る新しい輸送手段は幻想郷と呼ばれる新たな土地の為に是非利用したいと思った。


機関車をどうやって入手するか悩んでいたが、それは思いも寄らない手段で解決できた。
西洋でも妖怪たちの処遇に困っており、受け入れしてくれる土地を探していたらしい。
受け入れるかわりに列車を無料で提供するというのだ。
その当時は喜んで申し出を受け入れたが、後で酷く後悔することになった。
彼らを制圧するためにかかったコストで元が取れたのではないだろうか。


だが、彼女が受けいれたもう一つの要素が大問題だった。
竹林にあるあの建造物だった。