◎月 □日  No221 幻想と現実のはざまの事件


幻想郷の外の世界、たまに私は警察の手に負えない事件の捜査協力をすることがある。
今回の件は密室殺人であるが、被害者は捕食された形跡があるほか爪で引っかかれたような傷があった。
残されたのは一枚のカードである。血によって汚れているが、隠し撮りでどうにか朝倉にカードの内容を送ると
橙を呼び出す呪符の劣化版であることが判明した。 
しかも完全な手作りである。


橙は呪符を触媒にして呼び出だすことが比較的楽な妖怪といわれる。 
だが制御がきわめて難しい。
以前、うちの会社でも橙が大量発生して収拾がつかなくなったことがあったほどだ。 
ボスは現場写真を入手するように命じた。 
当社の問題なら警察よりも早く原因を究明する必要があるからだ。
カードの解析結果によるとカードを拡大して現れる制御文法が完全に欠けていることが判明した。
恐らく、出現した橙は長時間維持できずに消滅したと思われる。 犯人は橙で間違いない。


だが、北白河の報告で社内に緊張が走った。 なんと呪符の内容が草の根ネットで公開されていたのだ。
制御文法が欠けていたのはスキャニングによって複製されたものだったからだった。
タイトルには"橙を召還して素敵な夜を"と書いてある。 悪戯にしては性質が悪い。


データを削除するか? ウイルスはどうだと聞いたら岡崎がスタンドアロンのストレージには無力だと答えた。
かえって映像に価値が出てしまうと言う。 
そこにボスが薄ら笑みを浮かべながらこう言った。「橙を呼んだ奴がどうなるか 見せればいいだろう。」
かくして橙を呼んだ者の末路とかかれたファイルは瞬く間に広がった。
それでも橙を呼び出そうとしたらどうするのか? 
「そのときはそいつには神隠しに遭ってもらうしかないな」 ボスの発言は洒落になっていなかった。
この事件は結局、外の世界ではそのまま迷宮入りとなりそうである。