■月 ■日  No234 進化と蓬莱の薬


久方ぶりにメトセラ娘のカルテを受け取る。
中身は良く分からないが、所見は異状なしとのことなのでいいのだろう。
蓬莱の薬を服用した唯一の人間ということだが、もしその子供がいたら
やはりその子供も不老不死になるのだろうか
そうなるとどの段階で不死になるのか、受精卵のままで不老不死ならあまり意味がないような気がする。
朝倉にそのことを聞いたら、ちょっとした実験を見せてくれると言う。


用意したのはゾウリムシ。 ゾウリムシは有性生殖することが知られている。
その染色体をくるりと一回転して結んでやる。 染色体が環形になっているのは同じく不死といわれる
バクテリアたちの特性である。 いわゆる簡易型蓬莱の薬といったところか。
するとゾウリムシは無限増殖できるのかというとそうではない。
生殖行為ができなくなってしまうのだ。 
染色体の寿命を司る部分が機能不全を起こすと、染色体のコピーができなくなるらしい。
これがあのメトセラ娘の生殖細胞にも起こっているというのだ。 


すなわち、蓬莱の薬を服用したら最後、子孫を残すことが出来なくなるのである。
月で蓬莱の薬を禁じるのは当然のことだ。 
ただでさえ長寿人種の月人が子孫を残すことができなければ進化することができなくなってしまう。 
それは種の破滅を意味する。
死とは進化するというメカニズムのために生命が得たシステムなのだ。
メトセラ娘がこれからどうなっていくのか、私の寿命の続く限り見守っていきたいところだ。