○月 □日  No315 幻想郷的姥捨て山


上白沢がいきなり妖怪の山にある事務所に上がりこむや否や
IRシステムを今すぐ貸せと言い出した。
元々は河童たちが作り上げた人間を監視するためのシステムの総称である。
うちの会社も河童から借り上げる形でIRシステムを利用している。 
インフラはうちの会社もちだ。


事の起こりはこうだ。 
上白沢の塾に毎日通っていた生徒の家で突然通学拒否が起こり、
心配になって様子を見に行くとその生徒は丁稚奉公に出され、
今まで居たはずの病気がちだった祖母が居なくなったという。 
幻想郷のエンゲル係数は約60%強と言われる。

 
上白沢は貧困のあまり祖母が姥捨て山に捨てられた可能性が高いというのである。 
妖怪たちは幻想郷の人間を食べてはいけない決まりになっているため
万が一その祖母が妖怪たちに捕食されたら色々と面倒になるという事情もあるだろう。


ところが、IRシステムにはそれらしき人影は見つけられなかった。
そこに丁度、うちのボスが通りかかった。 
事情を聞くと大天狗に話をつけてくると言って出て行った。


数分後、40人余りの鴉天狗がうちの事務所に押しかけIRシステムの
端末の前に座り何やら念じ始めている。 
直後に現れたボスに聞くと、「ビックブラザーのお出ましだ」という。 
幻想郷を対象に風聞や喋っている内容を
すべて拾い出して検索をかけているというのだ。 
まるで幻想郷版エシュロンである。
ものの数分で祖母は発見された。 
妖怪に食べられる覚悟を決めて念仏を唱えていたらしい。


近くを巡回中の白狼天狗に保護してもらい、上白沢の叱咤もあって
その生徒の家族は元の生活を取り戻した。
上白沢のせいで私の財布は軽くなったが、どうせ私の春画を買う金で
あろうと言われ思いっきりずっこけた。
お金は戻らないことはわかっているが、「たまには人助けも一興だろう」と
ボスに言われて何とか気を取り直した。


お金を会社で支給してもらえばよかったと気づいたのは、
今日記を書いているときである。