○月 ×日  No327 人間だからできることもある

妖怪と人間は根本的に違う。 
人間は脆弱だが弱さゆえに知恵を絞り今日の文明を生み出した。
妖怪は強かったが知能もあるゆえに人間の文明におんぶすることができた。
そんな両者が全く同じ立場になる瞬間がある。


先日うちの会社に一人の妖怪がやってきた。
たまたま居合わせた私に飛びつくと、どうにかして幻想郷に送ってくれと言う。
私は知らない振りしてやりすごしたが、岡崎がその直後に捕まり、
よせばいいのにボスに判断を仰いだものだから事態がこじれた。
岡崎が事情を聞くと借金取りに追われていると言う。 
消費者金融から多額の借金を抱えておりこのままでは体を売るしかないと言われているらしい。
ボスに視線を向けると「×」マークのジェスチャーをしていた。
結局この妖怪はうちの会社から追い出されてしまった。


妖怪であってもお金のやり取りでは特別扱いするわけにはいかない。 
お金のやり取りは信用のやり取りでもある。
ひとたび高飛びの事例ができれば同じように考える妖怪たちが大挙して
わが社にやってくるだろう。
いくら消費者金融とはいえ、かれらもそれで生活している。 
一人の妖怪の我儘で彼らの生活を脅かす道理はない。
岡崎は追い出された妖怪のいた椅子をしばし見つめた後、何かを決意したように
法務部へ足を向けていた。


そして今日、追い出されたあの妖怪が菓子折りを持って岡崎に会いに来た。
岡崎は金利計算をやり直し、消費者金融が余分に取っていた金利
清算しただけだと言っていた。
お金に苦労した岡崎ならではの発想だったのだろう。 
ボスは岡崎に「よくやった」と労いの言葉をかけていた。 
力で遥かに勝る妖怪が法律の知識で人間に助けられたのである。 
これだから世の中は面白い。