○月 ×日  No328 予防接種はきちんとしましょう

幻想郷では現代では絶滅したはずの病気も残っている。
薬屋に納品に行ったときのことである。突然足が熱いと
言う少年が運び込まれた。
診察をすると、足の部分に犬に噛まれた跡がある。 
抗生物質を投与すればいいのでは言ったら薬屋に素人は黙っていろと言われてしまった。


実はこの少年がかかっていたのは狂犬病である。 
我々の国ではとっくに根絶された病気だ。
居候の人形娘が、ウイルスが脳に達したら死亡率は100%と耳打ちした。
事態の深刻さをはじめて理解した。
月の医療知識をもってしても有効な治療方法がないことを意味するのだ。
幸い噛まれた場所は足先だったので発症までは時間がある。
治療には免疫グロブリン狂犬病ワクチンが必要らしい。 
すぐに手に入ると高をくくっていた。


しかし、里香女史の報告で目の前が真っ暗になった。 
免疫グロブリンが国内で認可されていなかったのである。
うちの会社は大半の薬が入手できるがさすがに非合法の薬は取り扱うことが出来ない。
少年は苦しんでいるし、薬屋の表情は真剣そのものだ。
私は職務規定違反ではあるが、米帝免疫グロブリンを入手するように依頼した。
次の日、薬品は無事届き、少年はどうにか一命を取り留めることができた。
ボスにそのことを報告すると、「その程度の代償はとっくに支払っている」と言われた。
罰として、一週間の社用車の掃除を言い渡されたが、心の中は晴れ晴れとした気分だった。