□月 ●日  No1148 幻想郷の医療風景

久々に薬屋の診療所へ納品に行くと、そこは既に修羅場と化していた。
手遅れの状態から必死に延命処置を施しているらしい。
幻想郷の医療現場ではしばしばこういう場面に遭遇する。


こうした問題の原因は主に幻想郷住人の医療知識の欠如によるものだ。
顕界ではテレビにネット、医学書など病気に関する基本的知識を入手する手段は
たくさんあるのだが、幻想郷では一部物知りな妖怪たちを除いて殆ど知識がないと
考えた方が良いだろう。
以前取り上げたことのある糖尿病についても、患者自身は糖尿病かも知れないと
認識しないまま合併症を患い死に至るケースも多い。
病気の知識が少ない世界、それが幻想郷である。


しかし、幻想郷ならでは治療例も存在する。
顕界では先ず助からないが、幻想郷なら助かってしまうケースも確かに存在する。
単純な例は物が食べられなくなったときだ。
顕界で物が食べられなくなったらまず体力の低下は避けられない。
人間の躰はよくできているものだ。 エネルギーだけでは人間を維持するのは大変だという
わけである。
ところが幻想郷では相次ぐ食糧難の克服のため捨食の術なる技術がある。
これを応用することで相手の体力を回復することが可能だという。
幻想郷版点滴と言えば正解なのだろう。


とはいえまだまだ呪術的な治療もまかり通っているのが幻想郷である。
仮に顕界のような治療方法が幻想郷にも確立しているのなら
薬屋の仕事はもっと大変な物になっているだろう。
医療の基礎知識の欠如が薬屋をキャパオーバーから救っていると考えるとそれは
酷い皮肉ではないだろうか。


結局先の患者は、家族が戻ってくるまでの間まで何とか延命措置は施されたものの
手に負えず亡くなってしまう事態となった。 
薬屋の話では運ばれて来た段階で既にバイタルサインが殆ど無かったという。
不思議なのは、このような状況下で薬屋を罵る者がいないという事実だ。
顕界だったら難癖付けて医者のせいだと文句を言うものだが
医療が幻想郷では一種気休めにしか思われていないからこそ起こっている現象といえるかも知れない。
これもまた善し悪しである。