□月 □日  No611 うさぎ薬局


ブレザー兎から珍しく相談事を受ける。 何でも薬があまり売れなくて生活が苦しくなっているらしい。
明らかにニート姫の浪費癖と、本来財布を預かるべき薬屋が思いの外経済感覚がないことが原因だと思うのだが、
そんなことを指摘したところで問題解決にならない。
私に話を聞いたのは、割と商売がうまくいっている印象があるためだという。


とりあえずうちの会社にあるマニュアルに従って、ロールプレイを試みることにした。
ブレザー兎が普段どのように商売をしているのか興味もあった。
彼女の話はほぼすべて理解できた。しかしいくつか指摘しないといけない部分もあるようだ。


彼女の場合、商品の説明に終始していてしばしばお客様を置き去りにしてしまう。
薬の説明は有効成分まで踏み込んだ本格的なものだが、私ならともかく幻想郷の住民が理解できるとは
とうてい思えない。
もうひとつ彼女はクリティカルなミスを犯している。 
聞いてもいないのに副作用の話までしてしまうのだ。 
飲み合わせの問題まで言及されたらとてもその薬を買おうとは思わない。


そもそもかつての幻想郷の薬はおおかた漢方薬の類に近いものであった。
それらは体質を改善する薬であって、諸症状を直接的に緩和するものではない。
そんな時、薬屋のもたらした抗生物質や化学薬品の類は確かに幻想郷住民によく効いた。
だが効き過ぎてトラブルが頻発した。


そんな状態だから薬屋の薬はすぐに普及しない。
いつまでも当社の薬を買い求める者も後を絶たない。
私の説明はとても単純だ。 たとえば「これは腹痛の薬だが、効き目が強いから飲んだら
半日は他の薬を飲むな」こんな形でしか説明していない。


ブレザー兎にそっくりな売り方をしている知り合いが香霖だ。
彼もしばしば変人扱いされるが、くどくど売っているから何を言っているのか分からないタイプと
思われているのである。
彼女へのアドバイスは、相手が理解したかどうかを聞くことである。
「ここまでの説明はご理解いただけましたか?」と理解状態を確認するのである。
理解していなかったら理解できなかった部分を説明すればいいのだ。


ブレザー兎はきょとんとした目で、うんうんと頷いていた。
これで少しはまともに商売できるようになってもらいたいものだ。
香霖? 彼は諦めた。