○月 ■日 No 089 会社見学会


今年も奨学生を対象にした会社見学会の日がやってきた。
この日は来るべき社会人になる無垢な子羊たちに現実というものをもとい、
社会貢献する企業を紹介する大切な日である。
といっても、私の部署を見学する人は二人しかいない。
だが、問題は質だ。 ニートどもと違い京都大学の才媛である。


実際に二人の姿を見て私は凍りついた。あの幻想郷行き列車に潜り込んでいたあの二人だったのだ。
ボスに抗議したが、彼女は完全にわざとやっているようにしか思えない。


説明は玄爺が行っていた。爬虫類の説明でいいのかと同僚に話したら、
広報用のロボットにしか思われていないから問題ないと答えた。
どうやら私こそが幻想郷の発想に毒されているらしい。
会は報道管制用プランFに従いつつがなく進行した。
その中には幻想郷に関する内容は一切ない。
蓋を開ければ何事もない見学会であった。


しかし彼女たちの発言を私は見逃さなかった。
「やっぱりこれくらいが限界か」
あの二人のうち一人は境界を目視できる能力を有すると言う。 恐らく結界を越えたことを
本人は理解しているだろう。
私は、ボスの意図が何かを理解した。 早い話が顔見せなのだ。同時に誘ってもいる。
彼女たちに境界を越える覚悟があるのか? ボスはきっとそれを問いたいのかもしれない。
個人的にはあの二人にはさっさと普段の生活に戻っていただきたいと思う。