○月 △日  No385 信仰は生き続ける 変質はするけど


玄爺に言わせれば、結界の外は信仰が失われたと言われて久しいが
それはとんでもない誤りであるらしい。
信仰の力が失われる八百万のカミの中で、未だに強大な力を維持し続けている
カミはたくさんいるという。


その一人、天神様こと菅原道真は所謂雷神から学業の神様への転進に
成功して受験生たちの信仰を集めている。
もともと天神様は、所謂祟り神であった。 その力は、当時の朝廷に
多数の死傷者を出した強烈な物であったらしい。
道真を陥れた相手はそれからまもなく家系が断絶してしまったというのだから
朝廷が恩赦を連発し、祀りたくなるのもよくわかる。
そんな天神様だが、目的を達したらちゃっかり学業の神様へ鞍替えしてしまった。
もともと文化人だったわけだから、目的を達したら自分の趣味に走るのは
当然の流れだったのかも知れない。
この転進のおかげで天神様は学業を営む者の強い味方として現代社会に
君臨し続けているのである。


ローカルな話になれば、とげぬき地蔵が流し台をつくる技術者に
力を与えたなどという実例もある。 実は科学を信望しているはずの
技術者はしばしば最後は神頼みになるらしい。
知恵と技術を出し切った技術者を最後に支えるのは信じる心だというのだ。


さて、天狗の話によると先日発生した神社の消失事件は、
信仰の薄まりを悲観したカミが引き起こした物であるという
見方が出ているらしい。
しかし天神様のように、信仰の流れを変えることで自分の性質を
変えることができるのなら、今回の一件は骨折り損ではないだろうか。


朝倉は「早漏じゃない?」と言うがそういう発想をするのはあなただけだ。
玄爺は今回の件に関しなにやら入れ知恵をした者がいるのではないかと
疑っているようである。