○月 △日  No394 幻想郷の林業


うちの会社の幻想郷現地法人
その中でひときわ異彩を放つのは林業を生業としている人々である。
私とは部署が違うため、滅多に顔を合わせることはないが
今日は彼らが詰めている小屋に食料や物資を運ぶことになっている。
荷物をよく見るとやけどの薬と携帯用消火器が結構な数にわたって
用意されていた。


幻想郷に住む住民たちの貴重な燃料である「炭」それを支える林業
かつては鬼の仕事であった。
妖怪の山では、良い檜が群生していて炭焼きには最適の土地だったのである。
ところが鬼が思った以上に幻想郷にとどまらなかったことや、
無知な人間に退治されたり、より多くの収入を求めて魔界へ出稼ぎに行ったりした結果、
山が放棄されてしまった。
林業の世界ではちょっとでも手が入らなくなると山はたちまち荒れてしまう。
その間を補完すべくうちの社員と顕界にいる林業に携わるひとたちが
立ち上がったというわけだ。
現在では檜の計画的植林と伐採が繰り返されている。
八百万のカミにとっても予め根回ししているため非常にやりやすいと評判だ。


炭焼き小屋に足を運ぶと、天狗が薪を運ぶ手伝いをしている最中だった。
暇を持てあましている天狗たちがここにたむろしていると聞いていたが
結構な数がいて驚いた。 その大半が白狼天狗というのは、この妖怪の山の
実体を垣間見る気分である。


ここを仕切る人は、結界の外から引き抜いた人間たちである。
彼らの教えを妖怪たちは、熱心に教えを聞いている。
教える方もその熱心さに答え、教育に力が入っている。
この日も私が入ってきたことに気づかなかったので、納品書を
置いてその場を立ち去った。


外で火の粉が羽に引火した天狗たちが大騒ぎしていた。
「またか」と思いつつもこれもまた幻想郷の炭焼き小屋の風物詩だったりするのだ。
納品したばかりの消火器を持ち出して外に飛び出した。
正直、納品よりもこっちのほうが疲れる。