□月 ○日  No549 魔界神の依頼  


阿礼乙女の家より冥府に向かって書類の輸送を行うことになった。
死神一味に阿礼乙女の転生申請書類の搬送を依頼したものの、過積載で船を転覆させた挙げ句
書類が水浸しになって無効扱いにされたため急遽我々の列車で運ぶことになった次第。
うちの会社の場合、三途の川を迂回して魔界経由で冥府へ行くことになるので時間はかかるのだが
半月にわたってスタッフが書いた書類が駄目になることを考えれば幾分マシということだ。


魔界の入り口では門番達が休暇の打ち合わせをしていた。
博麗の巫女や霧雨のご息女たちが月に行ってくれるので魔界の門番も暇になるらしい。
こちらとしては魔界入りするのにさっさと荷物検査をして貰いたいのだが
言い争いをしながら仕事をしているものだから遅いこと遅いこと。
しまいにはイライラしてきて結局休日を仕切ってしまった。
今にして思えば、仮にも魔界の職員である。
美女であるがよく生きて帰ってこれたものだと思う。


魔界に到着すると、いきなり魔界のメイド軍曹から呼び止められた。
やたら態度がでかい上に人をウジ虫呼ばわりするので勝手に命名しておいた。
なんでもあの魔界のカミから直々に依頼があると言う。 会社にも連絡済みらしい。
魔界のカミとは数度謁見したことがあるが、彼女の印象は毎回違っている。
少女のような立ち振る舞いをしたかと思えば、威厳のある姿をしているときもある。
いずれにしても幻想郷内ではトップクラスの要注意人物である。


魔界のカミの依頼を聞いて思いっきり脱力感に苛まれた。
彼女の依頼は実に単純で、人形遣いのアリスが月に行くのをどんな手段を用いても
阻止しろと言うものだった。 
場合によっては、アリスを拿捕して魔界に連れてきてもよいというかなり過激なものである。
理由はなんとなく見当がつく。 子離れできない親心というのが本音であろう。
しかし、アリスの気持ちはどうなるのであろうか。 友人の危機とわかれば彼女もまた
どんな手段を用いても傍にいようとするのが筋ではないだろうか。
いずれにせよ、この案件は要検討になると思われる。


阿礼乙女の書類はなんとか無事に所定のところへ運び込むことができた。
久々に閻魔様の公務を見学できた。 相変わらず威厳ゼロでスカートの丈が極端に短いのが
気になった。 彼女のファッションセンスなのかどうかはわからない。
死神一味は鉄拳制裁したと言われた。 コメントに窮する。


帰りがてら魔界の門を叩いたら、中がまるでお葬式のような暗いムードに包まれていた。
シフト表を覗いてみたら、血文字で「休みはなくなりました」とだけ書かれていた。
魔界の職員さんたちも大変だなと思う一日であった。