□月 ○日  No548 正しい五寸釘のありかた


人形遣いのアリスと言えば、丑の刻参りの報道被害で変態のレッテルを貼られているが
実際のところはそうではない。 と私は思っている。
一癖もふた癖もある幻想郷の住民の中では、かなりまともな部類に属することは間違いない。


元魔法使いの朝倉に言わせれば、昔の自分を見ているようでかなり恥ずかしいらしい。
魔法が全能だと信じているところがあって、対人関係すら魔法でどうにかしようと
してしまうという。 ゆえに丑の刻参りのような噂が立ってしまうと考えられている。


人間関係をどうにかする魔法というものはとてもリスクを伴う危険なものである場合が多い。
女の子の雑誌でも恋のおまじないがよく紹介されているが、その幾つかは
人間にも害を及ぼす危険なものだ。
人を呪わば穴二つという諺があるとおり、呪術は反射して自分に降りかかるリスクが多い。
朝倉や明羅女史が彼氏募集中でかつそれなりの実力があるにも関わらず、おまじないに
頼らないのはそのためだ。
しばしば制御不能になってしまう上に、成功しても確たる効果も期待しにくいらしい。
当然その事は人形遣いのアリスほどの魔法使いなら百も承知のはずだという。


今日の仕事は珍しく深夜指定の配達であった。
エレンのマジックショップで販売しているマジックアイテムを人形遣いのアリスに届けることになった。
月明かりのお陰でそれほど暗くない森の中をすすんでいつものように配達。
カンデラに照らされた配達先にはまるでわら人形のような物体が何個も置かれていた。
アリスに事情を聞いてみると、人形に加工する前の素体みたいなものらしい。
ここから服を着せたり、髪を生やしたり目を付けたりして人形への体裁を整えるそうだ。


今日はこれらの素体に魔力を注入する作業をしないといけないらしい。
人形は基本的に魔法の糸で操作するのだが、立ったり歩いたりといった基本動作は
自立動作するように作るのだという。
箱を開封すると、試験管と注射キットが入っていた。 さらに自力で立つことを覚えるために
人形を木にくくりつけて、魔力を注入するらしい。
その姿を見て、思わず納得してしまった。 シルエットが丑の刻参りそっくりだったのである。
やっぱりアリスはまともな人だったわけだ。



納得して帰路につこうとしたら、明かりに目が慣れすぎたせいか、
人形に足をひっかけてしまった。 元に戻そうと人形に手を触れたら感触に違和感を感じた。
月明かりに照らして、まじまじとそれを見ると「呪」の一文字が書かれたわら人形であった。
アリスがこちらを見ていないことを確認してそそくさと帰路についた。


人形遣いのアリスと言えば、丑の刻参りの報道被害で変態のレッテルを貼られているが
実際のところはそうではない。 と思っていた。
どうやら少しだけ認識を改めないといけないようである。