□月 ●日  No781 幻想金融道


うちの会社でも手出しできないことはある。 それが金融だ。
当然だが幻想郷にも金融機関は存在する。
いや本来存在しなかったものを賢者の思惑で出現させたという表現が正しいかも知れない。


博麗大結界が現代の姿になったとき、最初に問題となったのは市場経済の崩壊だった。
折しも幕府の倒幕、明治新政府の樹立とあってお金が大きく変容した時期でもある。
この微妙なタイミングで幻想郷は現代の姿になってしまった。


幻想郷の経済は天界や魔界も巻き込んで大混乱した。
しかし、博麗大結界を生成した賢者の一人が、通貨を兌換通貨化すなわち
金と交換できるようにしたことで通貨の価値を護ったと言われる。
その賢者は少なくても隙間妖怪ではないことははっきりしている。
ボスが言っていることだからほぼ間違いないだろう。
実際うちの会社は幻想郷に数々の物品を納品することはあっても金融商品
扱うことは禁じられているからである。
ボスはそれを一種のフェイルセーフと言っていた。


霧雨店に納品しているとときたま、両替商の人間も出入りしていることがわかる。
彼らは霧雨店に事業資金を提供し、企業収益を利子として受け取って収益を得ているのだ。
そもそも幻想郷の金融機関は人間に対して資金的便宜を図るために存在しているらしい。
阿礼乙女の話によるとこうだ。


妖怪たちは総じて寿命が長く、お金を返すためのスパンも永く採ることができる。
これは顕界でも同様だ。
だが、人間はそうはいかない。 寿命の問題上、信用はいつまでも保たないから
お金を貸してくれる人がどうしても妖怪有利に働いてしまう。
そこで幻想郷の金融機関はたとえリスクがあっても人間に優先的にお金を貸すことにしている。
もちろんやり過ぎるとモラルハザードを引き起こすのでそのさじ加減が大変だ。


モラルハザードといえば幻想郷ではそうした金融モラルハザードとは無縁だと言われる。
まず金融に勤めている人間の所得が一般職と余り変らない事が挙げられる。
その分の人件費はいざとなったときのキャッシュフローとして残す事になっている。
考えても見れば顕界で幻になった制度は幻想郷で生きるのだから、金融モラルハザード
しばしば大不況になっている顕界と比較すれば幻想郷の経済は驚くほど安定していると
言えるだろう。 もっとも幻想郷で大恐慌になれば幻想郷そのものが破綻するだろうが。


今日新しく作られたお金を天狗が運んでいるのを見た。
きっとお金に関する一連のことは天狗が行っているのだろうか?
情報とお金を一手に担う天狗が幻想郷で最大の勢力を持ちうることを考えると
もしかすると幻想郷で私の知らない何者かが中央銀行の役目をしているものと思われる。


うちの会社で株をやってる奴がいるが、妖怪のせいか、どうせ時間を掛けて返せばいいと
余裕綽々なのはどうだろうか。 さっさと貸した金返せよと思う。