□月 ●日  No782 幻想郷は楽園か?


新入社員や幻想郷をよく知らない人から聞かれることがある。
それは幻想郷は楽園かという問いだ。
確かに、博麗の巫女の二つ名は楽園に住む巫女という触れ込みなのだが
ちょっと待って欲しい。


私が知る幻想郷はとても楽園とはほど遠い。 むしろ外の世界すなわち顕界と比較して
かなり厳しい部分がある。 たとえば、通信だって自由に出来ないし、食べることだって
食べられる日と食べられない日があることを想像できるだろうか。
衣服だって毎日好きなものを着ていられるわけではない。
幻想郷の妖怪少女達を見て欲しい。 多くの場合毎日同じ服を着ているじゃないか。
我々の会社が物資を補給していてもこの有様だ。 幻想郷は決して豊かではない。


水道がないことを想像できるだろうか。 朝最初にやることは井戸に水を汲むことだ。
水を水瓶に入れて、水を飲むときだって一度煮沸してから飲むしかない。
蛇口をひねれば水が出てくるようにするには、魔法を駆使して浄水するとか
一部市街地で上水道を利用するなどしないといけないだろう。
水道の普及率はまだそれほど高くないのだ。
実は顕界でも上水道が通っていない場所なんてごまんとあるわけで
幻想郷に顕界以上のインフラを要求すること自体お門違いだったりする。


水だけでこんな状態だ。 白米のご飯を食べるのだってべらぼうな時間が掛かる。
顕界では最悪お腹が空いたら店に駆け込んで買ってくればいいだろう。
電子レンジに入れれば暖かいご飯が食える。これだけで贅沢な暮らしをしていると
気づくべきだろう。


では自分たちが住む世界が楽園かというと、多くの者はそうではないと思うはずだ。
逆に幻想郷に住む人に顕界の有り様を話するとそこは楽園だと答えるのである。
まさに隣の芝は青いというわけだ。


だが、傍から見ると幻想郷の住民は楽園に住んでいるように見える。
顕界にあるストレスから解放されているように見えるからだ。
もっとも幻想郷にいる人は食べるためのストレスを多分に抱えることになる。
当然だがストレスがない世界なんてありはしない。
ただ、幻想郷の住民の気質はどちらかというと南国に住む原住民に近いと言われている。
妖怪の力によって多少なりとも自然の脅威が和らいでいるからだと思われる。


幻想郷の住民は皆、暢気に暮らしているように見える。
これは単に時間の流れが違うからだ。 
分刻みの仕事をしているわけではないし、効率を重視した行動を求められているわけではない。 
これが幻想郷が暢気であると錯覚させているに違いない。


結局のところ幻想郷も外の世界も受けるストレスの質が違うだけで
どちらも楽園からほど遠いというわけだ。
って話を朝倉にしたら、あっさりと
「苦を知らなくてどうして楽を知ることができるの」と言われた。
まあごもっともと感じ入る。