□月 ●日  No809 食べ物にまつわる話


冬に向けて河童達と食料庫の整理。
ぼちぼち秋姉妹が暗くなってきたので作業を早める。
最近は河童達も重機を使ってくれるので作業が楽だ。


入れるものはやはり飯。
カッパ巻きを作るために欠かせないコメをきちんと管理することに
関しては河童の右に出る者がいないだろう。
そのほか栗の類などの秋の味覚、芋の類が入る。
いざとなったらここが生活最後の防波堤になるのだ。


幻想郷で働いていると、食べ物の大切さを嫌と言うほど味わうことになる。
我々がいる顕界の大都市では飽食と言われるようになったが
食糧事情が大変だと言うこと自体が幻想になっているのかも知れない。
ともあれ幻想郷の食べ物への執着は半端ではない。


食べ物を落としたらどうだろうか。
顕界ではすぐに捨てるシチュエーションだが、幻想郷では落とした行為を咎められる。
洗って食べられるなら、すこし流水で洗って食べてしまう。


食の安全が叫ばれて久しいが、幻想郷で食の安全が語られることはまずない。
人体にすぐに影響しないとわかれば食べてしまうのが幻想郷だ。
それがおかしいと思う人もいるかも知れないが、食べられるかどうかが重要な
ところでは実際こんなものだ。
もちろん当社で運ぶ食べ物は顕界の基準で運ばれるのだが、例えばちょっと痛んでいると
言って撥ねようとすると現地の妖怪が怒るか代わりに食べてしまうのである。
それで体調が悪くなるのかと思いきや次の日けろっとしているのだからわからない。


ただし薬物汚染については少々厳しい。顕界では大丈夫とされている薬にまで
妖怪が反応する場合があるからだ。その逆もしかりである。
朝倉にその辺のところを聞くと、薬物の安全性は結局決められたものだからと言われた。
まあ判断基準は妖怪の嗅覚だったり味覚だったりするのでいろいろと怪しい。


ただひとついえることは、幻想郷にいると確実に食に対する価値観が一変すると
いうことだ。 ここで生活して以来、食べ方も変ったし、ご飯粒ひとつ茶碗に
残す事が恥ずかしくなってしまった。
食べ物を粗末にする人は幻想郷に行って性根をたたき直すのもいいかもしれない。