□月 ●日  No1292 流し雛の叛乱


雛祭り。 厄神様の悲痛な依頼で幕を開ける。
だから何故私なんだと思ったら、本当に用があったのは朝倉だった。


状況を説明するとこうだ。今年流れる筈の雛人形がどういうわけか付喪神
それ自体は特に問題は無いのだが、誰かの差し金か自己保存本能を得てしまい
川を流れて朽ち果てるのは嫌だとばかりに人形が逃げ回っているのだという。
そんなアホな話を扇動するのは大体あれしか居ないので、取り敢えず
近くで遊んでいたメディスンをピコぽんハンマーで殴っておいた。
流石にいきなり殴られるのは想定外だったのか面食らった表情が印象的だ。


私が何をしたんだとキレるメディスン。一歩間違えたら弾幕で殺されるのだが
こっちがあまりに弱いのでそれでもそれなりに余裕を取り戻すと、
自分を棚に上げて確かにそういう話をしたと言う。
やっぱりあんたか。


ここで朝倉が合流。怖い目をしてメディスンを一瞥。 そのまま無視して通り過ぎる。
手に携えているのは、人形遣いのアリスが持つと言われる「グリモワール
一体何処で調達したのか、事態は一刻を争うという朝倉を現場に案内する。


厄神様のところへ行くと、彼女は何やら祈りを捧げたような姿をして微動だにしない。
さっきまであれだけ権利意識に目覚めて元気だった人形が、動きを止めてしまっているのに
気づいて愕然とする。 
このまま流せば問題ないのではと回収しようとすると、持ったら崩れるから駄目だと
朝倉に制止される。 


雛人形としての機能を果たさない人形はそもそも信仰を得ることができない。
最初こそ付喪神として機能したが、やがて信仰を失った人形は自壊するしかないのだという。
まだ動く人形が自分の行った所業を呪い始めている。 
厄神様が祈っていたのはそこから生まれる厄を必死に拾い集めて人形が変な属性を持たないように
していたわけだ。


朝倉は、本を懐から取り出し、広げるとまるで鬼軍曹のように「動け」と叫んだ。
すると人形達は電撃でも走ったように姿勢を正したではないか。
そのまま詠唱した状態で動かなくなった朝倉だが、取り敢えず彼女がやりたいことは判った。
あとは私がこういうだけだ。
彼女が力を与えている間にお前らが本来やるべき事をなすべきだと。


雛人形はやはり雛人形なのである。
自分の役割を全うしてこそその存在を周囲にアピールすることが可能である。
かくして今年も何時ものように流し雛のイベントがつつがなく完了したのだが
とりあえずメディスンは後で閻魔様経由でしっかりお灸を据える予定である。