□月 ●日  No1300 能力に目覚めたら


幻想郷で仕事を続けていると、何かしら能力を得たりしないのかとよく聞かれる。
はっきり言ってそれはない。
もしも能力を得られるのならとっくに得られている筈だ。
能力を得るには一定の訓練がいる。 とてもじゃないがその訓練はあまりに
過酷で幻想郷で生きるためとか差し迫った理由でも無い限り、そんなことをやる
酔狂な人はいないと思って良い。


もし容易に能力を得られるとしたら、もっと妖怪ハンターは増えてしかるべきだし、
もっと幻想郷の生活は豊かであるべきだし、妖怪の力も顕界より弱いってことになるだろう。
巷の妖怪から私が何か能力を持っていると誤解されるのは本当に遺憾である。
くどいが、私に能力なんて一切ない。自分の替わりはいるものだと思っているし
弾幕戦もできないし、空も飛べない。
精神攻撃に強いと言われているが、あれはノーガード戦術であり、本当にトラウマを
掘り返されたら弱いはずだ。


勿論、能力があったらさぞかし便利だろうなと思う時はある。
空が飛べれば通勤が楽になるだろうし、もっと配送作業も楽になるに違いない。
もっとも現実はかなり厳しいらしく、電車の中で空を飛んだら発車のたびに慣性の法則
働いて周囲の人をなぎ倒すらしい。
顕界にやってきた妖怪が、電車と同じ速度で飛ぶ羽目になったという話をしていたことがあった。
さっさと着地すれば良いのだが、気づいたのは現地に到着したときだったらしい。


時を止められれば便利だと思う時があるが、メイド長を見る限り、時が止まる便利さから
仕事を他人に振れない問題を抱えることになる。 結果自分が疲れることになるから
この能力も考え物だ。 時間を止めながら昼寝が出来れば最高だろうが、
集中が途切れることを考えればこれも駄目だろう。


朝倉に効くのなら月兎の能力も捨てがたい。
どう考えても効かないどころか返されるのがはっきりしているから意味がない。
魔法を使えれば便利かも知れないが、事故現場を何度も見ていれば
やりたいとも思わない。 霧雨店の主人の態度はある意味当然のことだったりする。


駄目だ。能力を得てもまともな運用方法を思いつかない。
だからどうせなら妖怪になればいいと周囲に言われてもうんと言えないのだ。
人間やめてメリットがあるとはとうてい思えない。


ところで朝倉は私が半ば人間をやめているとと言っていたが、私は確かに三途の河を渡ったけど
あれは出張であって死んだわけではないので、魂魄と一緒にするのはやめて貰いたいと思う。