「お前は、聖白蓮という女を知っているかね?」
「妖怪の味方をしたということで封じられたという女のことですか?」
唐突なエーリッヒの問いに、甘粕は昔の記憶を取り出し答えた。
「あれはだな、表向きの理由に過ぎん。」
エーリッヒと、甘粕は魔界へと足を踏み入れていた。
途中、魔族と思われる人間が彼らを遠巻きに見ていたが、誰も手を出そうとしなかった。
「霊能局に、久保田という男がいただろう。」
「局長のことですね。」
エーリッヒの言葉に甘粕は、霊能局の局長の姿を思い出した。メガネを掛けた40過ぎの男。
元々は仏門に居たことは知っていたが、戦闘力もただ者ではないことは周知していた。
宮内省に強大なパイプを持ち、彼自身も妖怪退治の専門家だと言われる。
更にエーリッヒは続ける。
「聖白蓮はその久保田と因縁があるらしい。私が聖白蓮と名乗る女が私の娘を攫ったと聞いたとき
真っ先に協力を約束した。」
「外国人のあなたを霊能局が?」
◇
朝倉は月の海で増殖を続ける妖精達の姿を眺めていた。
「これに、博麗の巫女の力が加われば。」
「そして、その前に、目の前の兎を排除しないとね。」
そして朝倉の目の前にはへっぴり腰で銃を構える月兎の姿があった。
心なしか震えているようにも見える。
だが、このような者でも追い詰めれば大きな力を発揮するものだ。
相手は一匹だが、その戦闘能力は一般の妖怪では太刀打ちできないものであった。
その力が発動したとき、月兎の姿は視界から消えていたのである。
「あなたの動きに付き合ってあげる。」
「90秒だけだけどね。」
朝倉の姿が光芒を放ち、月兎と同じブレザーを纏った誰が見てもコスプレ企画ものにしか
見えない風貌へと姿を変えた。
朝倉の視界に再び月兎の姿が捉えられる。 それは彼女達のスピードについて行っている
瞬間だった。
彼女が姿を変えるときに翳したカード。
そこには"鈴仙・優曇華院・イナバ"と書かれていた。
◇
「私は聖白蓮が何故私の娘を攫ったのか分析を進めていた。」
「何故です?」
「彼女が娘を大切にしていたからだ、まず定期的に娘の言葉を送ってきた。
音声の内容から彼女が危害を加えていないことは明らかだった。」
「ストックホルム症候群では?」
「想定はしたが、今のところ考えにくい。」
甘粕の問いにエーリッヒは淡々と続けた。
「そして、聖白蓮の本当の狙いが見えてきたのだ。」
「それはなんと?」
「朝倉理香子と名乗る女に、自分の法力を届けて欲しいというのだよ。甘粕君。」