儚月抄プロジェクト
朝倉の頬を高温とも冷温ともいえない奇妙な風が駆け巡る。蒸発した妖精たちがまき散らした残骸は大量の水蒸気をまき散らしていた。 更に妖精が一点に集中しているため周辺の環境に影響を与え始めてもいる。静かだった海は波を湛え、空は曇天へと姿を変えた。…
朝倉理香子は今まさに自分が開発した物の真価を問われようとしていた。 それは多人数を相手にする為に開発されたスペルカードである。 本来はこの月面で多数の月兔と闘うための能力である。 妖精たちの興味は今まさに朝倉理香子に集中していた。 彼女たちは…
無数に増殖した人形生物たち。 彼女から感じる冷気や暖気、水が迸ると思えば一陣の風が吹くときさえある。 月兔はこの人形生物がもたらす今まで見たことのない事象に恐怖していた。 思えば自分が生まれてからこのような天変地異は見たことのないものである。…
「妖精が増えることで、一体何が起こるんだ?」 もはやタガが外れたように増加する妖精たちのライブ映像を、メイベル?が展開する 魔術モニターから観察しながら魂魄妖忌と村紗水蜜は唸った。 「具体的には月面の環境コントロールセンターに大きな影響を与え…
月の都沿岸部。 対峙した月の都の民の前に博麗の巫女は追い詰められていた。 元はと言えば吸血鬼の考えた遊びに乗っかったつもりであったのだが 今度ばかりは退治されるのは自分だという感覚があった。 異変を起こしたのは自分たちであるのなら退治されるの…
その出来事が起こった瞬間、魂魄たちは貰ったお金で目的のものを購入した直後であった。 「まさかくれるとは思ってもいませんでした。 親切ですね。」 村紗水蜜の言葉がすべてを表していた。ここの住民はフランクで接しやすかった。 基本的に皆親切であり、…
「お前は、聖白蓮という女を知っているかね?」 「妖怪の味方をしたということで封じられたという女のことですか?」 唐突なエーリッヒの問いに、甘粕は昔の記憶を取り出し答えた。 「あれはだな、表向きの理由に過ぎん。」エーリッヒと、甘粕は魔界へと足を…
朝倉理香子は失神一歩手前の状態から何とか耐えていた。 本来の自分のキャパシティを超えた大技を使用したが故の反動であった。 だが、彼女の試みは完全に成功したと言える。 朝倉理香子は再び、月の世界へと降り立ったのだ。およそ似つかわしくないブレザー…
旧地獄奥深く。 そこに急造されたまだ新しい巨大テントが設営されていた。 カクタスカンパニーのロゴが書かれたその中には大量の機材が唸りを上げているそこでは 法界アクセスのためのシーケンスが着々と進行していた。 「やはり現状では、法界へのアクセス…
水、乾燥肉、火打ち石、そして書籍。 上白沢慧音は袋の中に入っている物を確認し、指さし確認をしていた。 博麗霊夢が、魂魄妖忌が月に到達したこの日。 慧音もまた異形へと姿を変えていた。 頭には巨大な角が生え、碧い髪は深い緑へと、顔色には赤みは消え…
「久しぶりに見たけど予想より保存状態は良好ね。」 地下に埋設されていた天翔る船「聖輦船」 朝倉理香子は寅丸星と数人の部下を引き連れて聖輦船の中に侵入していた。 「はいはい、リストの品をきりきり回収なさい。」 理香子は部下達に指示を飛ばす。聖輦…
霊能局に位置する休憩ロビー。 ソファに腰掛けながら黄昏酒場の有江ルミは懐から取り出した煙草を吹かしていた。 月兎を捕らえて数日が経過したが、月側からの動きは一切ない。 本来ならありとあらゆる手段を用いて救助または襲撃があってもおかしくない。 …
「いつの間にここまで掘っていたのかね。」 甘粕達は近代的構造の地下トンネルを進みながら唸った。 周囲を見ると、職員らしき人間が今も働いているのが見える。 「鬼たちだ。土木建築の天才だよ。 法界へと通ずる地下トンネルだ。我々の出資の下20年前か…
「何故我々のことがばれた?」 ロケットの楯になるよう陣形を組んだ列車の中で魂魄は苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。 「どうやら、切り離されたロケットの中で神が召還されたみたいです。」 メイベルが即答する。 「だが、霊夢が召還した神なら問題…
「へ、なんで?」 東風谷早苗の提案に八坂神奈子と浅間伊佐美は思わず二人で一緒に間の抜けた返事をしてしまった。 これから15分後に切り離されたロケットが落ちてくる。 本来なら八坂様の力でそのロケットを破壊しないといけない筈なのだが。 「浅間さん…
「まずは第一の関門は突破といったところかしら。」 蓬莱山輝夜は永遠亭に侵入した賊を前に余裕の笑みを浮かべていた。 月は、満月に近く月明かりは賊の姿を照らすには十分である。 賊は和装に身を包み、髪の毛を後ろで束ねた娘であった。 その賊の正体を輝…
一基のロケットと二輌の列車は空間軌道を蛇行しながら一路月へと向かう。 ロケットは既に一つが切り離され、崩壊しながら落下していった。 全ては予定通りに進行していると言える。 「おっかしいなあ」 全てが順調に機能している計器類を見たメイベルが唸っ…
「神綺様、一体どういうおつもりなのですか?」 つい先日まで雨漏りのせいで湿気が篭っていた玉座を前に夢子は声を荒立てた。 「魔界神がここを何をしようと勝手じゃない?」 「ですが」 こことは地下深く魔界に存在する巨大宮殿パンデモニウムのことである…
八雲商事技術部、幻想郷ゆきの列車の製造や河童とのコラボレーション技術などを統括する部署である。 社屋とは別の場所にあり、一定期間ごとに引っ越しされるこの場所は社内でも正確な場所は機密事項とされる。 北白河ちゆりは、技術部の扉を叩いた。 コンビ…
地下深くにあると言われる地霊殿と呼ばれる建物。 甘粕は、この建物に身を寄せる事に決めた。 何故か?そこには心を読むことが出来る妖怪が存在すると言われる。 天狗などの諜報組織がここを調べることがあればここにいる心を読み妖怪が 黙ってはいない。 だ…
「ミスヒエダが幻想郷上空に飛んでいる所属不明機を問い合わせています。」 「何だと、許可した覚えも記録もないぞ」 「所属不明機は三機、内一機は我々のエージェントによって破壊されました。」 「彼女と連絡は取れるか?」 「現在もう二機と交戦中とのこ…
雲居一輪は外の世界からやってきたと思われる残る二機の戦闘機に手を焼いていた。 一機は入道の活躍により戦闘不能に陥れたが、残りは健在である。 入道は確かに不意打ちには有効な効果を発揮しただろうがいかんせん速力不足は否めない。 一輪は外の世界にい…
「あのう、種子島宇宙センターってどちらでしょうか?」 「はあ?」 今日の分の仕出し作業に精を出していた有江ルミはこの無茶苦茶な質問につい素っ頓狂な声を出してしまった。 質問の主に目を向けると、おおよそこの地域では似つかわしくない学生服に身を包…
迷いの竹林と呼ばれた場所。甘粕・バーレイ・天治はとある妖怪と対峙していた。 桃色の羽衣を身に纏った天女。そして今は幻想郷のために敢えて間謀になることを選んだ妖怪である。 「久しぶりと言うべきか、永江衣玖よ。」 甘粕は静かに、しかしはっきりとし…
天狗の住まう場所 妖怪の山には天狗の工場があるという。 しかし、上白沢慧音はそこには何もないと言っていた。 確かに妖怪の山を単純に観察すれば何も変哲のない山である。 だが、その地下では機械の地殻が唸り声をあげていた。 稗田阿求の号令により、かつ…
「おい、メイベルよ。 月に行くのに火力が足りなすぎはしないか?」 座席で出発の時を待つ魂魄だが、どうしても不安を隠しきれなかった。 現代よりも遙かに力をもっていたという妖怪が束になっても適わなかった月人に十分対抗できるとは 彼自身のも思えなか…
エーリッヒは満足していた。 圧倒的火力で、多人数の量産型を蹂躙する娘の姿をしたロボット「VIVIT」に。 八雲商事に、いやそこにいる朝倉理香子に「彼女」を預ける行為は正しかった。 朝倉理香子は短期間の間に「彼女」を付喪神(つくもがみ)へと押し上げ…
「これに乗れば、あたいも月に行けるんだね」 「そうです。この列車は月の都ゆきの籠。 みんなを月の都につれていってくれるわ。」 魂魄は、妖怪の山地下に作られた八雲商事管理の基地で異様な光景を目にした。 妖精達が大挙して八雲商事の列車に乗り込んで…
それは本当に巫山戯た話だった。 全身白づくめのメイド服を着た趣味の悪い人形と行軍しないとならない。 まったくジャップの考えはイカれている。 「メイドなんて家畜と同一なのに、ジャップは豚や牛を愛でるのか。」 そこにいた誰もがそう思ったであろう。 …
紅魔館内部に天蓋開閉の最終確認が行われているところを察知した。 博麗の巫女を乗せたロケットが遂に飛び立つ日がきたということだ。 たった数人で月に攻め込むという発想がご苦労なことだが、 このロケットが空飛ぶ大迷惑だということは君たちも理解してい…