□月 ●日  No1240 Kindergarten bus


「これに乗れば、あたいも月に行けるんだね」
「そうです。この列車は月の都ゆきの籠。 みんなを月の都につれていってくれるわ。」


魂魄は、妖怪の山地下に作られた八雲商事管理の基地で異様な光景を目にした。
妖精達が大挙して八雲商事の列車に乗り込んでいたのである。
それを先導していると思われる和服姿の女性。彼女は本来ここにいるべき人物ではない。


「何をやっているんだ阿弥、ここは本来お前の来るところではない筈だ。」
「今は阿求ですよ。 この妖精達を月の都に案内しようと思いまして。」


稗田阿求。本来なら幻想郷の歴史を紡ぐ語り部として幻想郷縁起と呼ばれる書物を編纂し続ける阿礼乙女である。
記憶を残したまま転生を続けることで知られており、魂魄もつい彼女の名を昔の名前で呼んでしまう。


「何を言っているんだ。この列車は物資を運ぶもので妖精を運ぶものじゃないぞ。
 それに、今上じゃ蜂の巣を突いたような騒ぎだ。一刻も早く避難しろ。」


魂魄は憮然とした態度で阿求に食って掛かった。 
実はその真上では、外の世界からやってきた人形たちが魂魄の仲間であるヴィヴィットと
荒事を繰り広げていた。
本来なら多勢に無勢な戦いである。 ダメージを受ける前にスペルカードによる一撃離脱が
セオリーとなる。当然大した時間稼ぎにはならない。 
魂魄は、基地にいるすべての職員を退去させるために見回りをしている途中だった。
そこに非戦闘員の代表格のような稗田阿求とたくさんの妖精達に出くわしたのである。
まるで遠足にもで行くような、そこだけ時間がゆったり流れるようなあまりの光景に
魂魄はただただ呆れるしかなかった。 
しかし、阿求の答えがさらに魂魄を呆然とさせた。


「避難? あなたもここに乗り込むのですよ。聞いてなかったのですか?」
「どういうことだ」


あまりの答えに列車の中に視線を移しながら魂魄は硬直していた。
列車の中はすでに小学生の修学旅行のような騒ぎになっていた。
ワイワイキャッキャッと騒ぐ声があったと思えば、別の車両では鳴き声も聞こえてくる。
お祭り騒ぎもいいところである。


「あなたは、この列車で月の都に行って貰います。これはあなたのボスからの伝言です。」
魅魔が? 何故?」
「白玉楼の二人を連れ戻していただきたいのです。」


余裕のある表情をまったく崩さない。阿求の姿に魂魄は絶句した。
どうやら嵌められたのは魂魄自身のようであった。



白色のメイドロボットたちは、たった一機の紅いメイドロボット相手に圧倒されていた。
本来同型であるはずの二機種、後発であるはずの白色のメイドロボットは本来なら紅色のメイドロボよりも
高性能なはずだった。
しかし、紅いメイドロボットが懐から扇子を取り出すと、翳しただけなのに白色のロボットを部品単位で分解していく。
分解された部品はまるで肉団子のような丸いスクラップへと姿を変えていったのである。