□月 ●日  No1360 そして魔界


「神綺様、一体どういうおつもりなのですか?」


つい先日まで雨漏りのせいで湿気が篭っていた玉座を前に夢子は声を荒立てた。


「魔界神がここを何をしようと勝手じゃない?」
「ですが」


こことは地下深く魔界に存在する巨大宮殿パンデモニウムのことである。
そのパンデモニウムが突然姿を変えてしまった。
宮殿内は騒然、 間取りが変わってしまったということでメイド妖精たちの業務に支障が出たとか
トイレに入ろうと扉を開けたら、謎のメカがあったとかで大騒ぎである。


「それに、パンデモニウム外縁部に得体の知れない突起が出ています。」
「あれは砲台よ。」
「えっ」


涼しい顔で放たれた言葉に夢子は思わず絶句してしまった。
考えてみれば夢子にとって家とも言えるパンデモニウムがなぜ建造されたのか
理解しているとは言いがたい。
魔界の民を守るための存在なら砲台があっても決して不思議ではない。


「夢子、今ここに現れたプロトン粒子砲28門を点検させなさい。」
「一体なぜですか?」


突然の命令に戸惑う夢子。生まれて初めて受ける命令にそもそもどうするべきなのか
想像ができない。 しかも神綺の表情は今まで見たこともないような緊張した面持ちであった。
博麗の巫女がやってきてもなお変わらなかった表情が変わった理由を想像しただけで恐ろしい。



「なんてことだ。」


メイベルの性能を聞いた魂魄妖忌は思わず唸った。
月面で何かをするにあたり、メイベルを列車内においたほうが良いのではないかと魂魄は考えていた。 
だが、メイベルの性能は彼の予想をはるかに超えていた。
少なくても遠足気分の装備ではない。


妖忌が驚いたのはなにより費用の掛け方である。
衣服には幾多の装飾が施され、宝石もちりばめられている。
ひとつひとつがアリスの収入はおろか、自分の収入ですら購入するのが難しい代物ばかりである。


そしてさらに妖忌を驚かせたのは、列車四両目にあるメイベルボディと衣服の大量のスペアである。
月に攻め込む以上は補給と兵站に気を配らないといけない。
とはいえ、補給まで考慮した装備を見せられた事には魂魄も驚きを隠せなかったのである。


「誰だ、スポンサーは?」


魂魄は思わずメイベルに尋ねた。
答えて貰える可能性は低いだろうが。魂魄は呻いた。



「なんですって、それでは魔界は。」


夢子が声を上げた。
食って掛かるように思わず夢子は神綺の前に立ちはだかるように前へ出た。
月の都にここで製造された人形が送られているとわかればここも無事では済まない。


「私は友達を救いたいという意見に賛同しただけです。」


夢子の心配する表情をよそに神綺は不敵な笑みを浮かべていた。


「ただ、備えは必要です。」