□月 ●日  No1718


その出来事が起こった瞬間、魂魄たちは貰ったお金で目的のものを購入した直後であった。


「まさかくれるとは思ってもいませんでした。 親切ですね。」


村紗水蜜の言葉がすべてを表していた。ここの住民はフランクで接しやすかった。
基本的に皆親切であり、その生活空間は外の世界や幻想郷と大きく変わることはなかった。
ただ、その場所に人間がいるのか、兔がいるのかの違いでしかない。


博麗の巫女たちは弾幕ごっこに興じていた。その模様は列車に多数搭載された
観測システムによって監視されて、メイベル?を経由してライブ中継されていた。
万が一の場合は観測用メイドを大量投入して戻るまでの時間を稼ぐ手筈であった。
魂魄たちが全速力で戻ればものの数分で到達できる場所でもある。


「とりあえず、ここは引き上げよう。村紗だけ返すことはできないものか?」
「なぜ、私を帰そうとするのですか?」


魂魄の提案に村紗水蜜は抗議の声を上げた。月の都は平和な場所だった。
ステルスミッションで入り込んでいる限り特に危険は迫っている様子はない。
先に目的を達した村紗はすっかり観光気分になっていた。
だが、八雲紫がただ、博麗の巫女すらもおとりに利用して何か時間稼ぎをしようとしているのは
間違いないことであった。


「おまえは目的を達したからな。ここは観光目的でくるべきところではない。」
「そうですね。ここは戦場になりますからね。」
「なんだと?」


メイベルの一言は二人を驚かせた。博麗の巫女と月人の戦いは月人優位に推移している。
やってきたのはメイドロボットと数十体の妖精たち程度だ。
これでどうにかしろと言うのは無理に近い。


「ところで、魂魄はなぜ月面戦争で妖怪が負けたと思っていますか?」
「そうだな。」


メイベルの問いに魂魄は少し考えた素振りを見せた後こう答えた。


「補給だな。基本的に防衛する側の方が不利なのは補給路を先行で叩かれるからだ。
 だが攻撃する側が補給をきちんと考えていなければ戦線は長く伸びて各個撃破されてしまう。」


「そうですね。」


村紗水蜜が相づちを打つ。


「あと物量だな。十分な物量を投入できなればゲリラ戦術しかないが、こうも真っ正面から
突っ込めば殲滅戦になる。ところで。」


メイベルは確実に次の言葉を待っていた。


「何故それを聞く?」


「もしも、無限に増殖しつづける生物がここに降りたとしたらどうでしょう。」


魂魄たちは一瞬瘴気が体を駆け巡った悪寒に襲われた。


「戦術オプションアップデート。 ここからが本番です。 それまでに博麗の巫女たちには
 帰って貰わないと。」


メイベルは博麗の巫女が戦っている場所ではなく、何故か海の方向へと視線を動かしていた。