「妖精が増えることで、一体何が起こるんだ?」
もはやタガが外れたように増加する妖精たちのライブ映像を、メイベル?が展開する
魔術モニターから観察しながら魂魄妖忌と村紗水蜜は唸った。
「具体的には月面の環境コントロールセンターに大きな影響を与えます。
変化を是としない月面では最低限の天候変化を行いますが、それが大きく狂います。」
月面は本来人が住めない土地である。それを住める土地にするには所謂テラフォーミング
装置である環境コントロールシステムが完成している必要がある。
自然現象の象徴である妖精たちが急増すれば、環境は大きな変化をはじめる。
変化とは月面人が忌むべきものであり、幻想郷にあって月面にない要素だった。
「すなわち、ここが幻想郷と同じになるってことか? 隙間妖怪もとんでもない計画を
ぶち上げたもんだ。」
魂魄は天を仰ぎながら、吐き捨てる様に言った。平和に見えるこの土地をここまで
する必要があるのか?
「だが、奴らだってバカじゃないよ、妖精を駆除される危険もあるはずじゃ。」
「もうすでに八雲紫が十分な火力をもった敵の分断に成功しています。
あとは土下座してでも時間を稼ぐでしょう。」
村紗水蜜の問いにメイベル?は冷静に答えた。
どうやら月面の破綻は決定的になってしまったことを示していた。
こうしている間に、温暖だった気温は少しずつであるが低下を始めていたのを
三人は察知していた。
*
「とりあえず、八雲紫の賭はこの段階で勝ちか。」
千年前と変らない銃を持った兔を小さな離れ小島に捕らえながら朝倉理香子はつぶやいた。
「あとは魂魄が連れている舟幽霊が持っているものを回収すればいいのだけど。」
朝倉理香子は増殖を続ける妖精たちを観察しながら海の上で待機していた。
彼女が月の都に近寄れないのには理由がある。彼女は十分すぎるほど穢れを纏っていた
からである。半霊である魂魄やそもそも非生物であるメイベル、そして舟幽霊である
村紗の三人が活動すればよい。自分の力だけでは月人に勝てない。だが、兔相手には
勝つことが出来る。 兔たちが妖精たちを倒すのを防ぐのが彼女に与えられた任務だった。
「応答願います。どうぞ。」
「応答願います。 やっぱりどこかでサボっているのかな。 昼寝しているとか。」
兔がもつ通信機を傍受して朝倉理香子はあきれた表情をした。
彼女たちはポンコツ過ぎた。