□月 ●日  No1258 本気の支援


「おい、メイベルよ。 月に行くのに火力が足りなすぎはしないか?」


座席で出発の時を待つ魂魄だが、どうしても不安を隠しきれなかった。
現代よりも遙かに力をもっていたという妖怪が束になっても適わなかった月人に十分対抗できるとは
彼自身のも思えなかった。
その心配はアリスが操る人形 メイベルにも伝わったようだ。
相手に考えを悟られる恥を忍び、魂魄は尋ねたのである。


「その件ですが、実は森近さんからお届け物がありまして。」


メイベルが取り出したのは長さ8尺はあるであろう大きな包みであった。
包みを解いた魂魄は驚きのあまり腰が抜けそうになった。
それは八咫鏡八尺瓊勾玉、草薙の剣で構成される まさしく三種の神器である。
三種の神器はうち二つを宮内省が管理している。すなわち下部組織である霊能局が
今回の作戦を応援していると言うことを示したものでもあった。


「なるほど、これなら月人と対抗することができそうだ。」
「これ、一体何に使うのでしょうか?」


満足そうに呟く魂魄をメイベルは不思議そうな表情で見ていた。
魔界生まれのアリスにとっては三種の神器の意味など分からなくて当たり前かもしれない。
三種の神器とはその昔神々が使っていたというアイテム総称である。
それを行使する存在もまた、英雄または為政者という名のカミとなれる。
すなわち、この三種の神器は自らをカミとして行動できることを意味する。
本来は顕界の為政者が持っているべき品々である。


これが魂魄の手に渡ったというのは幻想郷の、そして顕界の本気を示すものであった。
ここにきて魂魄は腹をくくることができた。
これだけの支援があるのなら、それなりの戦果は上げられるに違いないと考えたのである。




稗田阿求以下 第二次月面戦争スタッフは二機の戦闘列車の準備を済ませようとしていた。
妖怪の山地下に存在する基地は、とある動力源により復活を見た。
人類が夢見る核融合の力。このエネルギーにより、妖怪の山地下の基地は全機能が利用可能に
なったのである。


そしてその作戦を指揮する発令所では白色の衣に身を包んだ橙型妖怪十数人が
宙に浮かぶ魔法陣に処理を行っていた。 八雲商事製量産型橙である。
電脳との親和性を重視した情報処理専門の式神であった。
元来、式神はコンピューターと親和性が高い。特に橙はスペルカード実行時に電脳空間を見せるほどの
親和性を持っている。彼女を量産して事務処理に当たらせれば仕事量を飛躍的に増やすことができたが
肝心の歩詰まりが悪く、結局配置できたのがこのプロジェクトのために用意された十数人だった。


「稗田様、インベテンデンス フリーダム ともに積荷の搭載完了。」
「インベテンデンス フリーダム システム イグニッション」
「作業中の河童は至急指定場所へ避難してください。」


橙たちの報告と共に次から次へと発進シーケンスが進行している。
インベテンデンスならびにフリーダムとは列車に付けられた愛称である。
いずれも月に対し、人類の独立と自由を願ったものである。
人類は月人に翻弄されながら発展してきた。あるときは争いの火種を撒かれ
あるときはオーバーテクノロジーを提供されたりもした。
彼らに対する憧憬と決意がこの列車の名前にあった。
星の名前にしないことで月の影響を避けたとも言われている。
適当に搭乗したつもりの魂魄は実はインベテンデンスに搭乗していたのだった。


魂魄は集中力を高めるべく黙想していた。自分が三種の神器を使いこなせるか
全てはこの集中に掛かっていると確信したからである。
しかしその時間はあまり残されていなかった。
しばしの静かな時を打ち破ったのは彼女とは思えないはきはきとした 稗田阿求の声だった。


「こちら稗田阿求。幻想郷千年の記憶に従い、妖怪の山の封印を解きます。」
館内に流れる放送、それは作戦発動の合図であった。

「幸運を」



「博麗の巫女不在の幻想郷か。」


紅魔館から伸びる一筋の雲。
その様子を甘粕・バーレイ・天治は紅魔館を一望できる丘からその様子を
観察していていた。