□月 ●日  No1413 彼女が願うもの


「何故我々のことがばれた?」
ロケットの楯になるよう陣形を組んだ列車の中で魂魄は苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。
「どうやら、切り離されたロケットの中で神が召還されたみたいです。」
メイベルが即答する。 
「だが、霊夢が召還した神なら問題が無かったはずだろう?」
「召還プロセスが違うのです。今回は、正式な召還方法だから問題なのです。」


「正式? 霊夢の召還方法は正式ではないのか?」
「術式の一部が抜け落ちています。博麗の巫女の力を行使して力尽くで召還されています。」
魂魄の問いにメイベルは事務的に答える。 どうやらメイベルには今回のプロジェクトに関する
知識が埋め込まれておりそれを呼び出すことができるようだ。


しかし魂魄の心に一つの疑問がわき起こる。
仮に博麗霊夢の召還方法が不正な物だとすると、なぜ月人は不正な神の召還が起こっている事実を
今まで見過ごしてきたのか? 


列車の横を、巨大な碇に繋がれた兎たちが通り過ぎる。
落下しているというのが正しいかも知れない。 
それは列車フリーダム号から放たれていることを魂魄は確認した。
魂魄はその碇に見覚えがあった。 あのような弾幕を行使する妖怪は彼の記憶では
一人しかいない。 
同時に魂魄の心には釈然としないものがあった。
なぜ彼女までもが復活したかである。



思えばあれから1000年の月日が流れていた。
我らが師が人間に封じられた「振り」をすると決断してから村紗水蜜はその意味について
永い期間考えていた。 
師は妖怪達の支援者であった。妖怪が月への侵略に失敗したとき、
月の民は人間の為政者を操り妖怪達の支援者狩りを行った。
師は妖怪にも平等にもたらされるその寛大な心と慈悲故に攻撃の対象となった。


人間が作りあげたお粗末な結界を無効化するのは難しくはなかった。
だが、それではあの疑り深い月の民を欺くのには不十分であった。
師は敬愛する弟が遺した宝物をキーにすることにした。
それが月から持ち出された物であることに彼らが気づかない訳がない。
宝物は師の弟がなよ竹のかぐやと名乗る人物から譲り受けたものだと聞いた。


永い期間の間にキーとなる宝物は喪われた。
だが、それこそ師が遺した道だったと村紗は今にして思う。
キーが喪われている事実に目の前が暗くなった村紗に一筋の光明が差した。
それは同じく師の舎弟である寅丸星が教えてくれた言葉。
「宝物は月の都ではポピュラーな物が選ばれた。即ち月の都に行きそこにある
宝物を持って行けば師を解放することができる」と。
村紗はこの言葉に全てを賭けることにした


人間に裏切られた村紗にとって師は全てであった。
師の意志は自分の意志でもあった。
自分を救ってくれた師の恩に報いたいと考えていた。


故に村紗はこの銀河鉄道に乗り込む。
目の前にいる月兎を蹴散らし、必ずや宝物を地上に送り届けるのだ。