□月 ●日  No1470 発掘船

「久しぶりに見たけど予想より保存状態は良好ね。」


地下に埋設されていた天翔る船「聖輦船」
朝倉理香子は寅丸星と数人の部下を引き連れて聖輦船の中に侵入していた。
「はいはい、リストの品をきりきり回収なさい。」
理香子は部下達に指示を飛ばす。聖輦船の中にあるという必要なものを
集めるためだ。 寅丸星を連れているのは宝を効率的に集めるために
他ならなかった。


岡崎夢美と寅丸星の活躍により聖輦船周辺はほぼ完全に掌握されていた。
押さえた船の中を調査するのが朝倉理香子の目的である。


「これが村紗水蜜を救った聖輦船。」
「結果的にね。」


寅丸星の言葉に朝倉理香子は自嘲気味に答えた。
「結果的」という言葉が星の癪に障ったが、理由を聞かないといけない。


「この船はね、元々忌々しい八意永琳の部下のものなのよ。」
「それってまさか?」
「そう、これは月の使者が乗っていた宇宙船なのよ。」


寅丸星はこの船が一体何をもたらしたのかを思い出していた。
村紗水蜜を救ったとされる聖輦船。 それは沈まぬ船だった。
朝倉理香子の言葉に寅丸星は全ての合点がいった。 そもそもこの船は海を浮かんでいなかったのだ。
「浮かんで居ない」船を沈めることは不可能だったのである。
その村紗水蜜はこの船の複製に乗って大師復活の為の鍵を手に入れようとしている。


聖復活の鍵の大半は失われていた。
多くは売られるなどして全世界に拡散していた。寅丸星の力を持ってしても短期間のうちに
復活のために必要な鍵を集めるのは不可能であった。
しかし、朝倉理香子に出会って状況は一変した。
聖の旧友を名乗る彼女は復活のための装具の大半は既に集めていたのである。


寅丸星は朝倉理香子の意図を掴みきれなかった。 
封印したままなら特に無害なはずの彼女を復活させる理由が見あたらなかった。
自分なら彼女を助ける動機を持つことができるだろう。
だが朝倉理香子と名乗る人物は赤の他人だ。 しかし、大師様のことをよく分かっていた。
身体的特徴 性格 口癖に至るまで朝倉理香子は彼女を理解していた。
故に寅丸星は朝倉理香子を信じるに至ったのである。


寅丸星は以前から抱いていた疑問をもう一度朝倉理香子にぶつけることにした。
「どうして、今、白蓮様を復活させようとするのです。」
「復活、というと語弊があるわ。 結果的に復活することになるけど。」
「どういうことですか。」
「このままでは戦力不足だからよ。あいつらと闘うには。」



「随分数が増えたな。」
魂魄は数十人いたはずの妖精が数百人に増殖した様を見ながら呻いた。
月に放たれた妖精達は次から次へと増殖する。
自然の力に作用する妖精達の力で海は少しづつ波立ち一部では流れも生まれていた。


「あの吸血鬼は相当の切れ者ね。」
「何故だね」


月人と接触する博麗霊夢達を双眼鏡で見ながらメイベルは話を続けた。
「ほら、今 最小限の犠牲で済むように いや 出来るだけ時間を稼ぐように能力をコントロールしている。」
地面から突きだした刀で身動きが取れない博麗霊夢達を観察しながらメイベルは興奮した声色で喋りまくった。
双眼鏡には魔力発動を視覚化できる念度計がついている。
月人の念度計は振り切った状態だが、それに紛れて吸血鬼が能力を発動しチューニングを繰り返しているのが
見て取れた。 


「なぜ私たちの動きは相手に察知されないのですか?」
二人の会話に村紗水蜜が割って入ってきた。彼女もまた月に到達することに成功していた。
「私は人形、彼は半霊、そしてあなたは幽霊、みんな穢れと無縁だからね。」
メイベルは軽い口調で答えた。 彼女の話によれば生きている者はみな穢れを持っているというのである。


「で、これからどうする?」
魂魄が肩を回しながらメイベルに尋ねた。 月に到達して一戦交えるのかと思ったらあまりに何もなさすぎた。
疲労は回復したが、今度は暇になってしまったのである。
「それなら、捜し物に付き合って貰えませんか?」
村紗水蜜の言葉に魂魄はぱっと飛びついた。 どちらにせよ妖精が増殖するのを観察し続けるよりは
ずっと生産的だと思ったからだ。