□月 ●日  No1536 三者三様


朝倉理香子は失神一歩手前の状態から何とか耐えていた。
本来の自分のキャパシティを超えた大技を使用したが故の反動であった。
だが、彼女の試みは完全に成功したと言える。
朝倉理香子は再び、月の世界へと降り立ったのだ。およそ似つかわしくないブレザー姿で。


朝倉が用いた大技。 それは、隙間妖怪こと八雲紫の能力を真似ることだ。
彼女の姿を借りて、八咫烏をトリガーにして自らを転送してみせた。
しかし、それは本来可能ではない。
故に彼女は、自分の能力にブーストをかけるべく、ある物を利用した。
それは、理力に包まれた空間。地底に封印された聖輦船内部で術を使うことである。


聖輦船内部は理力に包まれていることは、既に友人である聖白蓮に起こった身体的変化を
見ても明らかであった。自分の能力を拡大して、月まで移動できるだけのスペックを
稼ぐ必要があった。 
時間と代償は掛かったが彼女の試みはほぼ成功を収めた。
あとは、永遠亭に住む兎に成り代わることで相手の識別をかいくぐることが出来る。


「さて、綿月姉が、幻想郷行きのゲートを開く前にこちらはこちらで捜し物をしましょうか。」
朝倉は不敵な笑みを浮かべた。



「おい、本当にこれで見つかるのか?」
二本の棒を持って珍妙な姿になりながら移動している村紗水蜜を魂魄たちは呆れた顔で
追いかけていた。
ナズーリンから借り受けた、アイテムに最適化したダウジング棒です。大丈夫。」
「せめてもうちょっとマシな索敵システムをだな。」
一応、月の都で不審人物扱いされないとはいえ、こんなものを持って移動していたら
違う意味で不審者扱いされるのは目に見えていた。
「ああ、ありました。」
目的の物はいともあっさり見つかった。何のことはない普通に店に並んでいたのだ。
あまりと言えばあまりことに三人?は拍子抜けした表情になったと同時に
大切な物が月の都では大した扱いを受けていない事実に驚愕した。


しかし、根本的な問題を三人は忘れていた。
お金が無いのである。



列車から降り立った妖精達は、少しづつ増殖を繰り返しながら
静かの海周辺で遊んでいた。 ここにいると力がわいてくる気がすると思いつつも
見慣れぬ光景にしばらくは大興奮していたが、やがてそれにも飽きてきた。
妖精の中に海の一部を凍らせて遊ぶ者が現れた。
それは少しづつ波状になって妖精達の間に広まっていた。 周辺の気温を
急激に下げると共に。