朝倉理香子は今まさに自分が開発した物の真価を問われようとしていた。
それは多人数を相手にする為に開発されたスペルカードである。
本来はこの月面で多数の月兔と闘うための能力である。
妖精たちの興味は今まさに朝倉理香子に集中していた。
彼女たちは死を恐れない。故に彼女たちを包んでいるのは怒りではない。
朝倉理香子に対する純粋な興味が当たりを支配した。
興味は弾幕となって月兔たちにも襲いかかる。
一匹一匹はたいした力がない妖精たちも今視認しただけで数千は下らない
数に増殖していた。朝倉に向かっている妖精もあくまで彼女の攻撃に興味を
示した数百が向かっているに過ぎない。
月兔の一人を抱きかかえながら朝倉は回避行動を取る。
月兔は朝倉の服装がまるでタイルが反転するかの様に変貌していくのを目撃した。
長髪はいつしか二つに別れたお下げ頭となっていた。
真っ白な服装は赤紫を帯びた鮮やかな色彩へと変っていく。
懐から携帯用端末らしき物体を取り出し、操作した。
月兔には空間が切り取られたかの様に感じただろう。目の前の弾幕が消滅し、
その間へとなだれ込む。
自分の仲間はどうなったのか?朝倉に抱えられた月兔は自分の仲間を
目で追った。彼女たちはすぐに見つかった。突然目の前へ出現したのだ。
朝倉の姿はいつの間にか別の姿へと変貌していた。紫の衣服はいつの間にか
濃い藍色へと変貌していた。いずれも見たことのない姿である。
「このままでは、じり貧ね。」
朝倉はこの絶望的状況に舌打ちしていた。月人との戦いの前に自分の
切り札を全部使う様な真似はしたくなかったのである。
月兔を楯にして逃げようとしたそのとき、体勢を立て直した月兔たちは
朝倉を取り囲む様に陣形を組んでいた。
「円陣防御っ。」
月兔の一人の叫びと一緒に彼女たちが持っていた銃が火を噴いた。
妖精たちの幾つかこれで雲散霧消する。
だがそれは妖精たちの興味をさらにこちらへと集中させる結果にしかならない。
たちまち防御は崩れはじめた。
もう一度切り札を使うしかないと朝倉は腹を括った。
刹那である。
巨大な光球とともに妖精たちが大量に消滅した。
腕を組んだ巨大な鳥の出現とともに。