□月 ●日  No1229 Vivit-G


それは本当に巫山戯た話だった。
全身白づくめのメイド服を着た趣味の悪い人形と行軍しないとならない。
まったくジャップの考えはイカれている。 
「メイドなんて家畜と同一なのに、ジャップは豚や牛を愛でるのか。」
そこにいた誰もがそう思ったであろう。
問題はメイド女を洋館に偽装した宇宙基地に輸送することだ。
まったく馬鹿げている。 


それは巫山戯た話だった。
米国陸軍が洋館に偽装した宇宙基地にこの糞みたいなデザインの人形を送るのだ。
それも一体の騒ぎではない。 それが十数体もいると来ている。
ダッチワイフとして使うにはあまりに童顔過ぎるその顔は日本人ならきっと好きそうに違いない。


それは巫山戯た話だった。
そんな俺たちの目の前に現れたのは1匹のバニーガール。
しかもガキと来ている。 
誰かがバニーガールに声を掛けた。
「可愛いウサギちゃん、ベットの上で遊びたいのかい?」
そいつはロリコンで有名だった。


通信兵はあり得ない指令に首を傾げていた。
「目の前にいるバニーガールを射殺しろ」と。
その意味を理解したとき、通信兵の視点は倒されたロリコンの兵隊に向けられていた。
すぐに攻撃しろと皆に伝えようとしたとき、バニーガールの姿は虚空へと消えた。
赤く光る目がスポーツカーのテールランプのように浮かんで消えた。


しばらく沈黙が訪れた。
ロリコンの男はなんとか目を覚ました。
いろいろ毒づいていたものの、それだけの元気があれば問題はないと誰もが思った。
しかし異変はそのとき起こった。
輸送物のあの人形が突然動き出したのだから。


そうだ本当に馬鹿げている。
なぜ、皆がそのメイドロボットに殺されようとしているんだ。
そうだ。 これはジョークだ。
それもとっておきの。



幻想郷のロケット発射を控えて、八雲商事スタッフはみな浮き足立っていた。
紅魔館にある一体の木製ロケット。これが月に向かって飛び立つのである。
普通の人間からすれば正気の沙汰ではないだろう。
だがロケットには幻想の科学によるさまざまなノウハウが投入されていた。
具体的には月に向かって一本のチューブを伸ばし、そこに向かって一直線に移動する
軌道エレベーターという概念を利用する。
幻想郷であれど、空に向かえば最終的に「高天原」に出てしまうが、
軌道エレベーターならヴァンパイアたち一行を安全に月に運ぶことができる。


ロケットに軌道エレベータとしての属性を与えるのは月の羽衣とよばれる布であった。
この布がロケット周辺にフィールドを張り、月面と接続する。
これにより生身の人間でさえでも月に行くことが可能である。
そのロケットにはなぜか、その布の切れ端が張ってあった。
数日前にやってきた、月の使者がロケットに貼り付けたからだ。
どうやら、使者はロケットに乗り込む彼女たちをつきに送り込みたいらしい。


スタッフの心配をよそに、ロケットは予定通り、博麗霊夢を乗せて無事飛び立つことができた。
しかし、ロケットを飛ばしている間、軌道エレベータを維持しないといけない。
軌道エレベータの維持はロケットの核となる住吉三柱神が行うとされている。
問題はエレベーター内部に便乗しょうとする輩からいかに身を守るかということである。
パチュリーノーレッジが幻想郷に残った主な理由がまさにそれだったといえるだろう。


すべては予定通り進んでいた。
はずだった。


そこに入ってきた。一本の通信。
それはどうやら米帝の軍隊のものだった。


「メイデー メイデー 現在、攻撃を受けている。」
「至急応援乞う」
「敵は ヴィヴィットG」


スタッフの誰もが耳を疑った。


通信兵の悲痛な叫び。 
メイドロボによって自分の運命は終わるのか。
そこにいた誰もがそう思った。 
しかし
奇跡は起こった。
マントを羽織った別のメイド型の人形が"彼ら"の間に立ちはだかったからだ。