□月 ●日  No1404 火事場泥棒


「へ、なんで?」
東風谷早苗の提案に八坂神奈子と浅間伊佐美は思わず二人で一緒に間の抜けた返事をしてしまった。


これから15分後に切り離されたロケットが落ちてくる。
本来なら八坂様の力でそのロケットを破壊しないといけない筈なのだが。


「浅間さんは外の世界の巫女様ですから二人で力を合わせればロケットを制御できると思うのです。
 切り離されたロケットにはきっと荷物が残ってるはずですから壊すのは勿体ないじゃないですか。」
早苗の素っ頓狂な提案に確かに一理あると浅間は思った。 ゴミだらけかもしれないがどうせ壊すものだ。


「切り離しに際して大切なものも間違って置いてしまうかもしれないから、ここで恩を売っておきましょう。」
常識にとらわれない娘だと同僚に言われていたが、想像以上だと浅間は唸った。
しかし、紅魔館の珍しいお酒も一緒に載ってるかも知れないと思うと確かに八坂様の力で破壊するのは
勿体ないかも知れない。
二人の腹は決まった。 
「よし、空を飛んでロケットを乗っ取っちゃいましょう。」


方法はこうだ。 風の力でロケットを徐々に減速させる。幸い人工衛星のお陰でロケットの正確な位置は把握できる。
減速しながらロケットに乗り込み神楽を踊って住吉さんに接続。
姿勢制御している間に金目の物を持って行く。 完璧すぎるプランだと二人は思った。 裏があるくらい。
神奈子はその二人を呆れた表情で見ていた。 自分は自分の役目さえ果たせばいいかと諦めた。
二人向き合って頷くと、まるで天狗のような早さで二人は宙を舞った。


ロケットの姿を捉えると早苗が風を用いてロケットを徐々に減速させる。 風洞となっている空間軌道のなか
必要十分な風力を得るのは容易だった。 たちまち減速していくロケット。
浅間が扉を開けて素早く中に入り込むと、そこは想像以上に整然とした内装があった。
博麗の巫女が置くであろう、神棚を見つけて住吉さんに接続を試みると思いの外簡単に姿勢制御できた。


浅間は外にいる早苗に上手くいったことを伝えた。 中には紅茶を作るための道具一式やお金が掛かってそうな家具。
そしてワインの類などが置いてあった。 思わず二人でガッツポーズをした。
「エアコンまであるわ。 どうにかして取り外して家に持ち帰れないかしら。」
「ロケットを下ろしたら河童たちに外させましょう。」
撃ち落とすプランはどこへやら、二人は金目の物を物色し始める。 
ワインの類などは容易に手に入ったが、本当にお金がかかってそうな装飾品はきれいに持ち去られていた。
「あのメイド長なかなかやるわね。」 
 浅間は装飾品の跡を見ながら思わず唸っていた。


あらかた金目の物を風呂敷に纏め、いざ脱出をしようと扉を開けたそのときだった。
目の前を金属の物体が横切った。 あと少し脱出が早かったら頭を割られていたかもしれない。
浅間は地上に連絡して状況を確認する。 どうやらロケットで異変が起こっているらしい。


次いで落ちてきたのはブレザーの服を着たウサギであった。
思わず早苗は風の力でウサギを受け止めてしまった。 そのまま自由落下させたら夢見が悪いように思えたからだ。
それを浅間がロケットに引き寄せる。


ついで、ロケットが揺れた。
早苗の目の前を再び何かが横切った。 今度は下からだ。
後姿を見た早苗が茫然と空を見つめる。「なぜ」
その早苗をブレザー服を着たウサギを抱きかかえた浅間が突き落とした。
「今すぐ脱出よ」
背中に風呂敷包みを背負いつつウサギを運んでいるためかバランスがぶれて仕方ない
浅間であったが、どうにか体勢を立て直す。


「金目のものは手に入れたし、早くここから離れましょう。」
「賛成」
 二人は一路地上を目指したのだった。