□月 ○日  No522 大酒飲みの女


うちの会社に物凄い大酒飲みがいるらしいという話を聞く。
何でもボスの推薦で入社したらしいこの社員は、私に言わせればアルコール中毒
そのものである。 噂ではエンゲル係数が60%くらいはいっているのではないかと言われている。


しばらくの間彼女に社内の視線は集まった。 しかしふたを開けてみると彼女は
ジュースの代わりにお酒を飲み、飲み放題のお店からは出入り禁止を喰らう
極度の酒豪だった。


アル中が会社にいられるわけがないと思って気にもとめなかったのだが
朝倉が持ってきた彼女の行動のレポートを見て考えが変わった。
彼女はお酒を飲むことで幻覚を見た気になっているだが、所謂狂水のカミと
接続を果たしていたのである。 その特性は自称現人神に近い。
狂水とはお酒のことである。


この特性が発覚したのは、最初の血液検査の時だった。
アルコール中毒がどこまで進行していたかを確認するためのものだったが
その時同時にお酒への耐性を遺伝子を調べて診断することになっている。


遺伝子診断の世界では、第12染色体 ALDH2遺伝子に欠損が見られると酒に弱くなることが
知られている。 これは肝臓のアルコール分解時にできる悪酔い物質を処理するのに
重要な働きがあるからと言われる。


うちの会社の入社時に行われる血液検査ではALDH2遺伝子のチェックも行われ
お酒をたしなむ妖怪たちに接することができるか検査される。
ところが彼女の場合は両親から遺伝子欠損を受け継いでいるにも関わらずお酒に極端に強い。 
これは本来あり得ない事である。
恐らく肝臓に負担をかけるアルコールをエタノールへと変換する作業と
悪酔い成分であるアルデヒドを分解する能力をカミ様に委託しているのではないかという。


昨晩、ボスが妖怪たちが普段呑んでいる酒場に彼女を招待したそうだ。
その時ちょっとした趣向を施してみた。 酒場内で弾幕戦を仕掛けたのだ。
その隠し撮りビデオを見せて貰うと、足はふらふらしているのに
敵の攻撃を確実に避けている。
まるで酔拳の挙動を見ているようだ。 少なくても私よりも回避能力はある。
その軽い身のこなしは玄爺や冴月を唸らせるのに事足りた。


訓練すれば戦力になるかも知れないと朝倉の弁。
早速引き抜きのために人事部へと交渉が始まった。 
また変な人がうちの部署に増えるのだろうか。勘弁してほしいものだ。