□月 ★日  No553 冴月のたいせつなもの


うちの会社で、玄爺以上になにをやっているのか分からないメンバーと言えば
間違いなく冴月だろう。 配達業務をするわけでもなく、依頼を受けると妖怪たちを幻想郷に
送りつけたり、逆に顕界に送って力を奪ったりすることができるらしい。
朝倉に言わせるとこの能力は、月由来のものであるという。
そんな冴月だが、今日久々に取り乱している姿を見てびっくりした。


なんでも雨傘の姿をした仕込み武器を紛失したらしい。
会社に紛失届を出せば問題ない思うのだが、ケブラー繊維を用いた物騒な代物で
防御と攻撃を同時にこなす便利な代物らしい。
そんな便利なものなら自分にも欲しいと思うのだが、当然傘を開いている時は前が見えず
そこそこ重量もあり、扱いはとても難しいという。 まさに冴月のための武器といえるものだ。


一般に物が紛失すると、それらは幻想郷に行ってしまうと言われる。
何処を探しても見つからないと言うことで、ボスの許可を得て幻想郷内の無縁塚で、
みんなで捜し物をすることにした。


案の定気がつけば、浅間は幽霊達と酒宴に興じ、岡崎はマニア幽霊と少女漫画談義を始め
北白河はどこかでさぼっている。 結局二人で探しているのと殆ど変わらない。
私が愚痴をこぼしていたら、冴月は三人が幽霊達を引きつけているので安全に探すことができると
言っていた。 確かに無縁塚は本来きわめて危険な場所である。


彼女がこの傘に何故拘るのかは分からない。 ただ彼女の必死の形相を見るにつけ
ただのアイテムではないらしい。 日が落ち始めてそろそろここにいるのは危険になってきたため
帰るように促したが彼女は頑として動かない。 それどころか私に銃をつきつける始末である。


いよいよ弱って当たりを見合わすと、背中に色々背負っている香霖を発見した。
本人に聞いたらあっさりと在庫があると答えた。 冴月が超反応で香霖に銃をつきつけるのを
なだめるのに苦労した。 岡崎、北白河、浅間の三人組は「もう終わり?」と不満顔だったが
お前ら仕事しろと言いたい。


結局香霖堂で希望の品が見つかった。無縁塚で拾ったものを持ち帰ったため在庫計上が
されていなかった。 あいた傘を覗いてみるとそこには冴月の名前が記されていた。
香霖に事情を聞くと、兎どもに売るつもりだったがあまりに物騒だったのでやめたらしい。
冴月は「名前には絆が隠されている」とだけこぼすとそのままいなくなってしまった。
名前を確認しないで転売しようとした香霖には北白河のパイプ椅子殴打が進呈された。
なんとなくだが彼女が拘っているものの正体が分かった気がした。