□月 ●日  No988 デンジャラスユユコ


お酒の席で、白玉楼のお嬢様の話が出る。
白玉楼のお嬢様で真っ先に思いつくことと言えば胃下垂ということだろうか。
亡霊に胃があるのかという根本的な疑問は残るがそれくらい彼女は酷い大食いである。
おまけに酷い猥談好きである。彼女自身は経験がないというのが朝倉の弁であるが
考えてみれば魂魄の部屋に春画が置いてあることをお嬢様が知らないはずがないのだ。
捨てられないと言うことは理由があったというわけだ。


そもそも何故こうなったのかというと、生前の彼女の暮らしが大きく作用しているらしい。
先ず、彼女がいた時代、当時腐女子による小説が流行っていた。
日記にはホモ漫画顔負けの展開が並び、とても正視できるものではなかった。
隙間妖怪が以前、顕界が彼女に追いついたと言っていたが多分そのことだろう。
この時代を生きていた人妖にはメトセラ娘や永遠亭の姫様とかがいるのだが
だいたい同様の属性を持って間違いないと言われた。 


大食いもこの当時身につけたものらしい。
当時の貴族の間では美味しいものを食べ過ぎて糖尿病を患う人が結構いたらしい。
しかも美人の価値観もやや違っており、ぽっちゃり系が人気だったためか
少しでも太るために多くご飯を食べる必要があったようだ。


この頃大流行したのが、呪術による暗殺である。
何しろ貴族たちを中心に権力争いが蔓延していた時代である。
暗殺するための祈祷から対抗手段の祈祷までなんでもござれだった。
まさにこの時代は呪術の時代だったのである。
当然、妖怪櫻の話もそのとき出ていたのだろう。


だが「何かの拍子」で妖怪櫻は真に人の命を奪う櫻へと変貌した。
この拍子が問題だ。そして力を持った妖怪櫻を利用しようとする者が現れるまで
そう時間が掛らなかったのである。


つまり白玉楼のお嬢様が人柱になってでも櫻を封じようとしたのは
政治的に利用されたからと思って良いようだ。
もちろん直接的な原因は恐らく別にあると思っている。
いくら博愛主義者であっても自分を滅ぼすようなことが出来るわけがないだろう。
彼女が生前の記憶を失っているのも結局はこの動機を隠すためのものではないかと思う。
それが結果的に上手くいったのかはとりあえず考えないで良いだろう。


今だから言えることだが、隙間妖怪は彼女が綿月邸から酒を盗んで心からほっとしていたらしい。
もし彼女が月の春画を見つけていたら彼女は確実に持って帰るだろうからだ。
もちろん、監視役はつけたつもりである。 
きっと彼女なら月の春画を両断してくれるに違いないだろう。


朝倉がそんな素晴らしいものがあるならお金を上げるから輸入してくれと頼んできた。
本気で頭が痛くなった。