□月 ●日  No1467 つまりはほうれんそうをどうにかしろってことだ


ムラサ船長が、半狂乱状態で私に話を聞きに来て最初大いに焦った。
大師様が姿をくらましたというのである。
彼女が部屋に行くと置き紙が置いてあって数日間ここを開けると
書いてあったそうだ。


この程度なら船長もそれほど動揺しなかったのだが、問題は
彼女が何処に行ったのか急に不安になって色々探しに回っても
何処にも居ないことだった。
人間と妖怪の関係に不満を感じる人に連れられてしまったのか
嫌な想像ばかりが彼女の脳裏を掠めたのは想像に難くない。
彼女もまた人間に裏切られたことのある女性だからだ。


実は一応、私は彼女が居ない理由を知っている。
朝倉が人間と妖怪の関係性について教えるために大師様を外の世界に
招待していた為だ。
だから私がムラサ船長にもそういう話をしているものと思って
それを前提に話をしてしまったら、酷く怒られてしまった。
こういうのは一輪嬢がきちんと教えてくれていると思っていたので
とても困る話だ。 仕方ないから概要を説明することにする。


そもそも大師様を顕界に招待するのには深い理由がある。
人間と妖怪が連携を取っている現状が盤石なものであることを
証明する必要に迫られたからだ。
彼女は一度人間によってその身を封じられた過去がある。
もちろんそれは納得づくの封印であったとしても人間と妖怪との
禍根の問題は根深いことを知っているのは他でもない大師様自身だ。 


妖怪と人間が共存している世界と言ってもそう簡単にお互いがそうですかと
言うわけがないのは当然の帰結である。
いくら大師様が聖人であったとしても彼女自身が現状を正しく理解して
いなければ元の木阿弥になるということを朝倉自身が漏らしていたのだ。
そこで隙間妖怪との相談の元でこの案件が浮上したというわけだ。
そんなわけで大師様は数日間顕界の視察と相成ったのである。
期間は約3日という話であるが、もっと早く戻るかも知れない。


ムラサ船長がそんな人間と妖怪が仲良くなれるのかと尋ねられたが
今時の妖怪は社会に溶け込みすぎて妖怪の能力そのものを才能と称して
世間で活躍する人ばかりだと聞いたら色々ひっくり返るのではなかろうか。
最近感じるのは幻想郷は種の保存のために用意された隔離施設ではないかと
思っている。


それで今何をやってるのかって船長を外の世界に連れ出すための
申請書を書いている。 一輪嬢の事例もあるので多分通るとは思うのだが
その結果は一応明日に出ることになった。
あとは野となれ山となれ。