○月 ×日  No330 月で戦争をおっぱじめるには


十数年前に打ち上げられた月面観測衛星が役目を終えて大気圏で
燃え尽きることになったらしい。
月には知的生命体が居るにもかかわらずここまで無礼な観測を繰り返していれば
なにかしら反応はあると思うのだが今日まで月からのまともなリアクションは
殆ど観測されていないのが現状である。
月兎たちの通信を傍受してわかったことだが、我々が送った観測衛星を地上からの
攻撃と勝手に勘違いして撃退したと思っているようだ。 
確かに月面の観測手段はX線を使うなど、お世辞にもそこにいる生物には
いい影響を与えているようには思えない。 
彼らが観測行為を攻撃と勘違いするのも無理はないだろう。


では、彼らは有効な反撃を行っているかと言われたら、できていないと答えるだろう。
本気で我々のところに侵攻したいなら、衛星の破壊は最低条件のはずだ。
近代兵器はGPSにかなり依存しているからである。
岡崎に言わせれば、状況は同じでも認識の仕方が変わればすべてが変わるという。
敗走というよりは転進と表現すれば体がいいのと同じだ。


もし仮に我々が月に攻め入ったとして、戦後統治のビジョンが希薄だと泥沼になる。
これは月側も同様で、どちらかが攻め入ったところでそれからどうするかが
はっきりしていなければろくな結果にならない。 
米帝が中東の国に攻め込んだみたいな状況になるわけだ。
結局戦争するよりも、統治後のほうが多くの犠牲者を出すなんてことになれば
元から人口の少ない月はかなり悲惨なことになるだろう。
結局のところコスト面でも政治面でも人間と月人が戦うのはあまりメリットが
ないことなのである。