□月 ●日  No2231 ヘタレ


妖怪に魅入られた者は妖怪になるという話をよく聞くが、割とその通りだと思う今日この頃である。
正確には妖怪も人間もそうは変わらないのではないかということだ。
そもそも月面人たちに言わせれば、生きているということ自体が不自然な状態なのだという。
そもそも不安定なはずのタンパク質の塊である生物が生きることによって環境に大きな影響を与えているとすれば
結局のところ我々もここに生きている動植物もマクロ的に言えば妖怪であるというのだ。


自然がよいとか自然が素晴らしいというのは結構だが、実際に生き物にとって住みよかった時代の方が
割と短いというのが彼らの弁である。
自然というのは死の世界だという。ただの岩石が氷漬けになっている状態が本来なら望ましい。
エントロピーの集約がある場所というのが一種の不自然と言え、生物の動きもエントロピー
集約を目指しているというのが実際のところだ。


月面人というのはいうなれば安定を目指したけど結局自分の精神を破壊するのは
ダメという困った人たちである。自分たちだけは観測者でありたいという欲望が結局のところ
自分の体を人間の体に固着しているという意味ではとても皮肉な存在だと思う。


このルールにのっとれば人間も妖怪もそうは変わらない代物だ。
それどころか生きている者は基本的に不自然な存在ともいえる。
そして生きている者によって環境というのは大きく変動させられる事実に気づかないといけない。


それは月面人は人間と変わらないのではないかということだが。
実は彼らはこの矛盾に苦しんでいるのだとか。結局彼らを救うには虚空へと同化する死しかないわけなのだが
それができれば苦労がないのは、結局死を操る亡霊を招き入れても何もできなかったヘタレ故ということなのである。


なんだかなあ。