△月 □日  No481 謎の調達屋


エレン嬢のマジックショップに儀式用の機材を買い出しに行く。
博麗神社敷地内にあった店は閉じたらしいが、彼女は別にいくつかの店を
持っていたらしい。 かつては物忘れを故意に起こす彼女が商売できるか
どうか不安だったのだが実際に会って疑問が氷解した。
彼女はいつもただ単純に忘れているわけではなく、記憶のバックアップを絶えず
とっているようなのだ。


普段はふわふわぱちぱちな彼女だがいざ仕事の話に変わると、途端に口調と
台詞回しも変わってしまう。 その性格はまさに守銭奴そのもの。
決済はすべて現金 為替だって使わせてくれない。
香霖に爪の垢を煎じて飲ませたい気分である。
「金さえ積めばクレムリンの宮殿だって調達する」とまで言う。


彼女が"目覚める"と店内の風景はがらりと変わりファンシー風味から
まるで倉庫のような雰囲気へと変わってしまう。この変容ぶりに私も
思わず緊張してしまう。


エレンのマジックショップは手数料を払って新しい魔法グッズへと
加工する商売をしている。 加工ノウハウは岡崎や朝倉も喉から手が出るほど
ほしいのだが誰にも教えてくれないらしい。
もしかするとすぐに忘れる仕様は、人格を守るだけではなく
このノウハウを失わないためのものかもしれない。


エレンとの交渉は私ももっとも苦手としている部分である。
とにかく目覚めた彼女は頭が切れる。 ふわふわぱちぱちの状態でさえ
ずばっと物事の本質を指摘するだけに、本気を出した彼女はその性格も相まって
厳しい要求を突きつけてくる。 玉虫色の受け答えをすると容赦なく
価格が上乗せされてしまう。
結局かなり不利な形で売買契約を結ぶ羽目になってしまった。 


帰社する直前エレンが妙なことを言っていた。
「紅魔館の糞ガキがロケットを作ったようだが、何故私に話を振らなかった?」
というような内容だった。まさか彼女にかかればロケットくらい調達できたのだろうか。
まさかガキとはヴァンパイアの主人のことだろうか。 彼女にはまだまだ謎が多い。