△月 □日  No480 危険な中毒症状


白狼天狗の詰め所では日々様々な暇つぶしが企画されている。
将棋が流行ることがあれば麻雀が流行るときもあり皆が和気藹々と暮らしている。
この日、そんな天狗達から鍋の材料を届けてくれと依頼があった。
最近寒くなってきたのでここで体を温めたいところなのだろう。
白菜や鶏のもも肉など色々仕入れて天狗達の元へ向かう。


納品がてら鍋をご馳走になり舌鼓を打った後いざ帰ろうとしたら
どうも天狗達の様子がおかしい。 いきなり転倒して気を失ったり、
吐いてしまったりする天狗もいた。
毒が入っていたのかとも思ったが、それなら私よりも遙かに体力のある妖怪が
苦しみだすのは理解しがたい。 まず真っ先に私が倒れるはずだ。


一人ではどうすることもできないので応援を呼ぶことにした。
やってきたのは里香女史である。鍋の中を一瞥するなり私の胸ぐらを掴んだ。
いきなり彼女たちを殺す気かというのである。
もちろん私も多少なら中毒症状を起こす食べ物は理解しているので
ネギの注文があっても扱いがないと報告していたのだが
どうやら、中毒を引き起こしたのは体を暖めるための食材であった
「ニラ」にあるようだ。
白狼天狗はニラを食べてちょっとした貧血状態に陥っていたのである。


気がついた天狗に里香女史が謝ろうとしたら、復活した天狗が一言
「やっぱり命がけで食べるニラ鍋は美味い」
あまりと言えばあまりの発言に時間が止まった。
顛末書でも書くしかないのかと思っていたのだが、怒る前に腰が抜けた。


私を庇ってくれているのかと思ったら、単純にニラ入りの鍋が食べたかったらしい。
ニラはたいした量が入らないし、天狗くらいの体重があれば
よほどのことがない限り倒れることもないという。


さすがの里香女史も居心地が悪くなったのか無言で退散
天狗達には感謝の言葉を投げかけられたが、私はただ呆然と立ちつくすしかなかった。
報告書を書いてからなんかどっと疲れてしまった。