□月 ○日  No508 食生活を支える精進料理


賞与が出たので久しぶりに社食の生姜焼き定食に手を出す。
高いだけにかなり美味い。
うちの会社の社員食堂は人間や妖怪が一緒に食事を楽しめるように工夫がされている。
人間の食事の一部は妖怪たちにとっては有毒な場合もあり、食券売り場も
人間用、天狗用とか色々とある。


たとえば、中間管理職狐や白狼天狗はコーヒーを飲むことができない。
ウーロン茶も御法度だ。これは含まれるカフェインが元で中毒症状を起こすためと
言われている。
しかし、これでは種族間の不公平感がでてしまうことになる。
そこで考え出されたのが妖怪のための精進料理である。
外見こそ我々が食べる料理そのものだが、材料は妖怪たちの味覚や体質に合わせたものに
加工されているのである。
もちろん人間も食べることはできるのだが、味がよいというわけではない。
ただ、北白河たち女子社員はこうした料理を好んで食べている。
低カロリーでヘルシーだと評判だ。


最近社食を真空パックした物を例の神社に運ぶようにと注文が舞い込むようになった。
北白河が自称現人神にヘルシー料理を紹介したらしい。
里香女史が仕事が増えるから勘弁してくれと毒づいていたが、本人はいくら食べても
太らないと言って大喜びである。 そこのところは現代の女の子だ。


同じくダイエット中のメトセラ娘がこの料理を上白沢に紹介したら
上白沢がカロリーの少ない食べ物を好んで食べるなんて信じられないと
言われてしまったという。 
彼女に言わせれば栄養のある食べ物こそが重要で
減量するという発想そのものがあり得ないというのである。
幻想郷と外の世界とのギャップを認識させられて興味深いことである。


ちなみにであるが我々が納品するおつまみの類も妖怪たちの体質に合わせて
かなり細かくセッティングされている。 
例の神社でカミ様の宴会が連日連夜開かれても、食中毒者を
出さないのはこうした細かな配慮による物だ。 
宴会の前にはうちの職員が綿密な打ち合わせを行い、参加する妖怪やカミ様を
リストアップする。 
中毒対策もさることながら特に重要なことは、共食い対策だろう。
精進料理はトラブル回避にとても有効な幻想郷ならではの智恵なのだ。