□月 ○日  No509 幻想の世界のクリスマス


幻想郷にはクリスマスイベントはない。
米帝からやってきた妖怪たちのクリスマスイベントはちょっと雰囲気が違うし
赤い服を着た髭面のおっさんが幻想郷に住んでいるわけではない。
そもそも、結界の外でさえ今のクリスマスイベントになったのはつい
半世紀ほど前の話なのだ。


だがそういう事実に納得いかない奴らがいる。
例の神社に棲んでいるあの三人組だ。
やれクリスマスツリーが欲しいとか、持ってきたらもってきたで飾りが足りないと
文句を言い、持ってきたらもってきたで電飾が足りないと文句を言う。
迷惑千万である。


おまけに夜になったら物珍しさに妖精達が寄ってくるようになった。
ケロちゃん帽の神さまがちゃっかり宴会を開いて信仰集めをしている。
ぴかぴか光るもみの木に真っ先に反応したのは氷妖精だった。
まるで子供が綺麗な物を見ているかのような表情をしている。
自称現人神が、雪が足りないと言い出したら、氷妖精が局地的に雪を降らせてくれた。
寒さに弱いふたりの神さまは奥でガタガタ震えていた。
威厳ゼロである。


神社にクリスマスツリーという異様な光景が展開される中
自称現人神が何故か「頂戴」のポーズをしている。
嫌な予感はしていたが、クリスマスプレゼントとケーキが欲しいと言い出した。
プレゼントかケーキかどちらかに反応したのかわからないが
二人のカミ様まで復活して私にもくれとねだってくる。
やんわりと断ったら、口を揃えて「どうせボーナスが出たでしょ」と言ってきた。
これだから外の世界からやってきた連中は嫌だ。


帰社して朝倉に話をしたらころころと笑っていた。
親密になるチャンスだから何かプレゼントで買いなさいと言う。
経費は出ますかと聞いたら自腹と言われた。
親密じゃない人に高い物を贈られても引かれるので
安い物が良いと言われたのが救いだったが、朝倉にまで私にもくれと言われた。 
私より高給取りなのに何を言うのだろう。
しぶしぶ欲しい物を聞いたら、換えのピコぽんハンマーと言われた。


重要なことはあくまで気持ちなのだ。
それは幻想の世界ではさらに強い意味を持つ。
なんとなく朝倉が言いたいことが判った気がして気分が軽くなった。