□月 ●日  No1037 社員証


メリーとレンコの社員証が届く。 試用期間が終わり、実登録が終わったためだ。
この社員証が我々の命綱となる。妖怪たちに殺されなくて済むのはこの社員証があるからだ。
もちろんただの社員証ではない。署名に自分の血液で作られたインクを使う一種の盟約書となっている。
ついでに保険証の類も同時に届く。


二人は恐ろしく順調に幻想郷に馴染んでいる。
恐らく馴染み振りはどの社員よりも早い。浅間でさえ最初は幻想郷の不便さに悶絶していたほどである。
酒が冷えないという意味で。
考えてみればメリーに至っては一度幻想郷に足を踏み入れているのだから、
それほど動揺しないのは当然なのだが。


自称現人神の件もあっさりと受け入れてくれた。 これは私にとって良い誤算だったと思う。
第一声が「なんだそっちに引っ越していたのか」だった。 


さて、渡した社員証を見せれば、襲ってきた妖怪が助けてくれる場合がある。
しかしこれの有効な使い道はやはり妖怪に助けて貰うときに利用することだ。
たとえば妖精の類は社員証を見せても悪戯の手は止めない。
だからこそ彼女たちは危険である。寧ろ強力な妖怪相手の方が分別を弁えている分マシだ。
また私がデストロイヤーと呼んでいる霧雨のご息女とか博麗の巫女にも通用しない。
巻き込まれたお前が悪いと言わんばかりである。


こうしたとき、付近を巡回する妖怪に助けを求めるのはとても大切だ。
基本的に仲裁、最悪は弾幕ごっこでケリをつけてくれる。
いつも都合良く巡回しているわけではないが、最悪通信で呼び出すこともできることになっている。
大体は手遅れであるが。


ただしこちらがちょっかいを出してきたことに起因するトラブルの場合はこちらがやられる危険がある。
まずそういったことは無いのだが、妖精を虐めたりすると風見女史に半殺しにされることが知られている。
植物にとっては妖精の力を利用して成長する要素があるので当然といえば当然のことなのだろう。


驚いたのは二人に早くもカードが渡されたことだ。
早くないかと朝倉に尋ねたら、私を実験台に大分ノウハウが貯まったのと、元から魔術師の素養があるから
問題ないとのことだった。 もっとも出来ることは私のカードよりも輪を掛けて簡略化したものだったが。


とりあえず渡す物を渡して注意事項を伝えたので例の神社に赴く。
自称現人神に新人二人にカードを貸すなと言うためである。
制御できないと命を失う危険があるため自分専用のカード以外は使わせないのが基本である。
カードを貸さないように警告したら、「こんな面白いもの貸すわけがない」と言われた。


今我々は何か重要な過ちを犯しているのではないか。
ふと思った。