□月 ○日  No537 風邪に注意


幻想郷の冬は寒い。
温暖化の影響をあまり受けていないこともあって、まるで保冷庫に入ったかのように
芯から冷えるのである。 これは建造物の影響も大きい。 
夏過ごすことを旨とする幻想郷の建物ではどうしても保温能力が期待できない。
せいぜい雨風をしのぐものであると考えて間違いない。


そのせいだろうかどうかは分からないが会社では風邪が流行っている。
北白河がノロウイルスに感染したとかで会社を休み、
岡崎も顔色がおかしいので冴月が病院へ連れて行っている。
ボスが体調管理にはくれぐれも気をつけろと注意を促しているが、人間も妖怪も
あっちでこっちで咳をしているのが実情だ。


こうなると一つ困ることがある。
風邪を引くと幻想郷入りできなくなったり、外の世界に戻れなくなったりするのだ。
風邪だからと言って馬鹿にしてはいけない。たとえば鳥インフルエンザになると
夜雀すら生命の危機に直面してしまう。
さすがに夜雀にタミフルを飲ませるわけにはいかないだろう。
もっとも飛び降りても幻想郷の住人は空を飛べるので問題はないだろうが。


幻想郷に納品に行っていたらやっぱり現地でも風邪が流行っていた。
そんなとき、自称現人神が半べそ状態で助けを求めてきた。
風邪の民間療法を天狗に試したら、体温が下がったがぐったりしてしまったらしい。
何をやったんだと聞いたらネギをリンパ節に巻いたらしい。 それも白狼天狗に。
体温が下がったのは貧血の症状であった。
自称現人神は鴉天狗には喜ばれたと言うが、白狼天狗は文字通りイヌ科の妖怪のため
ネギなんか使ったら中毒になるのは当たり前である。


天狗は大丈夫だと言っているが不安になったので、明羅女史に助けを求めたら
てきぱきとネギに触れた部分を冷水で洗い出した。
これだけで症状が改善するらしい。 
白狼天狗が明羅女史のアドバイスを震える手でメモしているので手伝ってあげていたら
「吐けば大丈夫と言って自分からネギを食べるな」と明羅女史から釘を刺されてしまった
白狼天狗の舌打ちが聞こえたような気がした。
自称現人神は大喜びで、八坂様くらい尊敬しますとか思いつく限りのお礼をしていた。


そんな明羅女史だが顔が赤いので心配していたら、午後には早々と早退していた。
彼女もまた風邪を引いていたらしい。
昨日のお礼もかねて寮に行っていたら、先客が何人もいてあきらめた。
困ったことに野郎ではなく少女妖怪ばかりだった。
明羅女史の苦労がなんとなく分かった気がした。結局薬だけ置いて帰った。