△月 □日  No493 マグロのお寿司


「マグロ寿司が食べたいわ」
自称現人神と例の神社にいるおねえさんたちの我が儘はここから始まる。
しかもこの娘ときたらこちら知らぬ存ぜぬで済まないようにと
セッティングも欠さない。
最悪なことにこのとき鴉天狗が同席していた。
鴉天狗の頭の中には押し寿司がイメージされているようだが
外の世界からやってきた自称現人神たちは明らかに回転寿司を期待している。


幻想郷では魚を入手しづらい。淡水魚の類は割と入手できるが
海からやってくると思われるごく一部の魚を除いてはほとんど流通していない。
詐欺師兎があるところから魚を手に入れているらしいのだが、それがどこかは
とうてい想像できないところだ。


鴉天狗がどんな食べ物なのかと興味本位で聞いてきたので
マグロの肉を生のままご飯の上に乗せて、わさびと醤油で食べる料理だと答えたら
鴉天狗が驚いた表情で硬直している。 彼女の真意が分からず
「まさかあなたも食べるのですか?」という質問に「それなりに食べる」と答えて
しまった。鴉天狗が明らかに引いている。


幻想郷の魚はそのまま食べるには生臭く、生で食べるなんて考えられないことを
思い出したが、気づいたときには遅かった。
フォローするつもりで、「結構美味い」と言ってしまいさらに事態が悪化。
おねえさんが小声で「アホだ」と言うのを冷や汗をかきながら聞き流した。
結局はマグロを調達する羽目に。


仕方なく駄目もとで里香女史に聞いたら切り身なら問題ないという。
鴉天狗が問題としていたのは内臓のことだったらしい。 
特に肝臓を摂取して中毒になると全身の皮膚が脱落することから
美容を気にする妖怪たちの間で「呪いの魚」扱いになっていたそうだ。
里香女史に言わせればマグロを食べる文化は幻想郷にもあったが
事故が多かったらしい。本当にややこしい話である。


今回はどうにか自称現人神にお寿司を届けることには成功したが
幻想郷に住む様々な妖怪の医学知識を総動員しないといけないのは
本当に疲れることである。